これはメールマガジン「新世紀へようこそ」の著者、池澤夏樹氏あての2002年新年のメールです。

人権・平和・憲法の価値 

 

  池澤夏樹様

 明けましておめでとうございます。「新世紀へようこそ」を毎号興味深く拝見しております。

 私は零細な古本屋を営んでおります。ここ数年、弊店は下りのエスカレーターを駆け上がらんとしても下がり続けるという状態です。

 弱肉強食の思想がはびこっております。私としては、弱者の思想が単なる愚痴ではなく、そこにこの社会を再生させる普遍性があるのではないか、という問題意識を持って、その内容ををより明確にしたいと願い、新聞や雑誌を読み、「新世紀へようこそ」も拝見しております。

 今日、平和や人権をめぐってはタカ派というか、マッチョ志向が大手を振っているように思います。もともとこの国には、文芸春秋・新潮という代表的な文芸出版社が、シニカルな人間観に基づいてもっぱら人権攻撃を中心とする週刊誌を発行してきた、というお寒い状況があります。それに加えてグローバリゼーション下での長期不況が人心を荒廃させ、真の変革に向かうのではなくスケープゴート探しに目を逸らされているように思います。たとえば石原都知事の暴言の数々が問題にされるどころか人気が持続しているらしいというのも、かつてなら考えられないことです。ブルーハーツが歌ったように「弱いものがより弱いものをたたく」危険な状況です。小泉人気というのも共通の基盤の上にあるように思います。

 時代閉塞の中で変革が求められていても、人権・平和・憲法は無力なタテマエに過ぎないというシニシズムの下では、ホンネとしての暴力(やカネなどの力)の方に流れてしまいます。ただこのシニシズムは現実の反映であるだけに、それを打ち破るためには、今もうまずたゆまず続けられている、生活と権利を守る労働者や市民などの闘いを励まし、その成果に励まされながら、現実の中から人権・平和・憲法の価値を説き続けることが必要だと思います。

 本年もまた勇気ある作家の声に期待しております。お体を大切に。

  2002年1月2日

                                  

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