平和構想学習会のレジュメ集です |
平和構想学習会(仮称)第1回 2017年8月5日
於:くらし支える相談センター
テキスト 渡辺治・福祉国家構想研究会編 シリーズ新福祉国家構想D
『日米安保と戦争法に代わる選択肢 憲法を実現する平和の構想』(大月書店、2016年)
シリーズ刊行にあたって(2011年11月)
本巻は「シリーズ新福祉国家構想」の1冊
今なぜ福祉国家型対抗構想が求められているか
新自由主義改革(労働市場規制と社会保障制度への攻撃)
による深刻な社会危機への対処
日本と欧州との違い
2009年民主党政権誕生後の情勢
「新しい福祉国家」とは何か
「福祉国家」とは何か
産業別労働運動と国家による労働市場への規制、国と自治体による社会保障・教育保障を通じて、すべての人々の最低生活保障に責任をもつ国家
○西欧の「旧い」福祉国家 アメリカの軍事同盟に組み込まれた冷戦体制の一翼
○新しい福祉国家 アメリカを盟主とする帝国主義陣営が福祉国家を投げ捨てたのに
対抗して反グローバリズム、反帝国主義の国家構想
本研究会の目指す「新しい福祉国家」の6つの柱
1.憲法25条を実現する雇用保障と社会保障の体系
2.福祉国家型の税・財政政策 大きな財政
3.地域社会に根ざす産業主体の経済構想(VS 大企業本位の経済成長戦略)
4.福祉国家型の国と地方のあり方を示す対案
5.自然エネルギーを中心としたエネルギー政策
6.安保廃棄・自衛隊縮小、憲法9条具体化の安保・外交構想
新しい福祉国家は資本主義の否定ではなく修正:日本における留意点
1.旧い福祉国家の完成を目指す
2.拠り所として日本国憲法をもつ 特に9条・25条 憲法は新福祉国家の理念の規範
序章 安倍政権による戦争法強行と対抗構想(渡辺治)
1 戦争法、参院選が示した日本の岐路
戦争法が示した、戦後日本の二つの岐路
一方で、戦争のない70年 特異な国 戦後の国是の「転換」
他方、 日米軍事同盟の「帰結」
日本の平和と安全をめぐる三つの選択肢
(1)憲法の制約の打破 日米同盟の強化
(2)安保条約廃棄 憲法の目指す「武力によらない平和」の実現
(3)安保と自衛隊を維持しつつ制約を維持する
戦争法反対闘争 (2)と(3)の合流
参院選は何を示したか――戦争する国づくりへの懸念と中国、北朝鮮への不安
参院でも改憲勢力2/3を超える VS 一人区での野党共闘の健闘
→国民の平和に対する気持ちの揺れ
日米同盟の強化を唱える自民党への支持の強さ(中国、北朝鮮への不安)
VS
戦争法や改憲への根強い不安(海外での戦争・安倍政治への危惧、憲法への親近感)
本書で一番考えたいこと――本書の概要
○戦後日本が、冷戦期にも冷戦後にも戦争に巻き込まれなかったのはどうしてなのか?
安保による米軍駐留か、憲法か
○日本の安全のためには沖縄の米軍基地は不可欠だったか、
米軍基地は日本とアジアの平和のために設置され機能してきたのか?
○戦争法は本当に日本の安全を確保するのか、
そうでないなら日本とアジアの平和を実現するにはどうしたらよいのか?
*各章の内容 省略
2 戦後世界と戦争――冷戦期の戦争と冷戦後の戦争
冷戦期の戦争とはどんな戦争か
アメリカ帝国主義の戦略 自由市場圏の確保 敵対物の打破
「社会主義」圏・旧植民地の解放運動・英仏など旧帝国
ソ連 「社会主義」圏の拡大・維持 東欧諸国などへの侵略
米ソ戦争の回避とそれぞれの勢力圏内での戦争と武力行使
軍事同盟条約が介入や侵略の口実
冷戦後の戦争はなぜ頻発したのか?
ソ連・東欧の崩壊 冷戦の終焉→グローバル資本にとっては夢の時代
唯一の覇権者・アメリカ帝国主義の三つの狙い
(1)拡大した自由市場秩序の維持と陶冶 中国も含む帝国主義・覇権主義国同盟
1.自由な市場秩序に歯向う「ならず者国家」の転覆
2.旧「社会主義」圏や途上国で自由・通商秩序を形成・強化
(2)自国のグローバル企業の権益擁護
(3)自国国民経済の利益擁護 しかししばしば犠牲に cf トランプの登場
冷戦後の戦争の三つの時期区分
第一期:自由市場秩序形成の戦争 1990〜2001年 湾岸戦争、ユーゴスラビア内戦
第二期:「反動」に対する制裁戦争 2001〜2008年 イスラム原理主義勢力拡大、テロ
第三期:アメリカの疲弊、テロの拡大 2008年〜
1.同盟国への肩代わり政策 2.地域紛争の激化、大国の共同軍事行動
3.中国・ロシアの台頭
中国は脅威か?――中国経済の発展と大国化
中国大国化の経済システム:開発独裁型国家資本主義 →グローバリゼーションの勝組
1.国家支援による開発型成長政策
2.輸出主導型経済の発展←安い労働力、地場産業・農業への新自由主義的規制緩和
覇権主義国家化
高度経済成長を上回る国防費増 世界第二位へ
習近平「中華民族の偉大な復興」 大国主義・覇権主義戦略
中国覇権主義の二つの側面
1.グローバル競争大国 アメリカと共通の利害
2.政治優位の覇権主義 自国領土・勢力圏の拡大 政治・軍事的に資源・市場確保
二面的な米中関係
冷戦期の米ソ関係とは違う 中国覇権主義の二面性に対応したアメリカの二面性
米中戦争の可能性低い 台湾・北朝鮮をめぐってはやや危険性あり
中国覇権主義への対処 軍事でなく多国間の紛争解決のルール化
その上で帝国主義・覇権主義を生い立たせているグローバル資本への規制(P22)
現代の戦争の危機とグローバル経済
現代の戦争の要因
(1)グローバル経済の悪循環
格差・貧困の拡大への反発・テロ→「自由な市場」秩序維持のための戦争
(2)台頭した覇権主義大国が勢力圏拡大・維持のため 中国・ロシア
(1)の解決 第一段階 対症療法:警察的・軍事的活動
第二段階 グローバル資本への規制・WTO等国際ルールの見直し
地場産業の再建 貧困・格差の解消 国民経済保護のための規制
安倍政権の対処:戦争法 (1)の戦争への参加 (2)中国脅威論を煽る
日本がなすべきこと (1)の第一段階 非軍事の支援活動 第二段階 積極的イニシア
(2)紛争での武力不行使の確約など二国間・多国間のルール形成のイニシア
3 安保体制は日本の平和と安全を確保したのか?
冷戦時代、安保と米軍基地は日本の平和を守ったか?
ソ連・中国の侵略の危険性は低かった
自国の勢力圏の「反乱」への介入は行なったが、自由主義陣営への侵略はなかった
米軍駐留の理由
日本防衛ではなく、アメリカの対「社会主義」陣営の極東戦略
冷戦期の現実的危険性
安保条約によってアメリカの戦争に自衛隊が巻き込まれることしかない
憲法によって安保条約が本来の機能を制約されたことがそれを防いだ
冷戦後の日本はなぜ戦争に加担しなかったか?
自衛隊の海外出動への圧力と危険が増したが、9条政府解釈により
「人道復興支援」に限られ「武力行使との一体化」が制約される
この制約を突破したのが戦争法
4 安倍政権の安保構想で日本の平和は確保できるのか?
戦争法は日本の平和を確保するのか?
戦争法制定の「理由」
1.日米同盟強化による抑止力の強化
2.「積極的平和主義」の国際貢献で世界平和を促進
⇒アメリカの戦略に加担することで中国の脅威に対し日米同盟を発動でき、
同時に対テロ戦争などに協力することで大国としての威信をあげられる
この路線は日本に対する信頼を損なう
中国の軍事大国化に対して日米同盟の強化では、中国の軍事強化に口実を与える
紛争解決のルール作りが重要
日米安保によらないアジアの平和と日本の安全保障の構想の実現に取り組む
5 安保と日米同盟強化に代わる選択肢は?
戦争法に代わる二つの道
1.安保廃棄派
2.「リベラル」派 安保条約と自衛隊は不可欠
しかし冷戦後の情勢で、戦争法による日米同盟強化は誤り
個別的自衛権に限定した「専守防衛」の自衛隊で日本の安全を守る
安保のない日本こそ選択肢
「リベラル」派の構想は現行安保条約下では実現できない
辺野古新基地建設阻止、普天間基地撤去、首都圏の米軍基地批判…
「専守防衛」の自衛隊は安保条約下では不可能
安保のない日本という選択肢の柱
(1)戦争法廃止、15年ガイドライン破棄、特定秘密保護法・NSC廃止、
辺野古新基地建設阻止、普天間基地撤去
(2)安保条約廃棄、米軍撤去
(3)アジアでの非核・平和保障協定の締結、世界レベルでの核軍縮・通常軍備軍縮
(4)自衛隊の二段階改革
第一段階 安保条約廃棄とともに日米軍事関係を廃棄して従属関係を断ち切り
「専守防衛」へ
第二段階 災害復旧活動と非武装の国際支援活動部隊に改組
(5)多国籍企業中心の経済構造を改革し、新自由主義改革を停止し福祉国家型経済へ
(6)世界経済の改革 グローバル資本の規制と各国国民経済の再建
「安保のない日本」をめざす担い手の形成と過渡的政権
現状では安保・自衛隊容認の世論が多数 その改革への合意が必要
安保のない日本に進む国民的基盤:戦争法の目指す海外での戦争反対、9条改憲反対
戦争法反対運動で総がかり行動実行委員会 安保闘争以来55年ぶりの共同
安保・自衛隊容認派も含めて9条掲げる→安保のない日本を展望する担い手の可能性
戦争法強行採決後も廃止の野党共同を生み出す
当面する一致点で政府形成:日本とアジアの平和構築の画期的政権
上の(1)の実施 基地縮小・廃止のための地位協定見直し
中国含めた多国間協議 領土紛争での武力行使禁止の協定締結
日韓・日中の歴史問題の解決
6 憲法と日本の平和
日本国憲法という存在
「武力によらない平和」の構想を打ち出した憲法の存在が攻防のカギ
憲法と憲法擁護の国民の経験:安保のない日本へと踏み出す上で大きな力
国民の反対で50年代改憲の挫折→戦力ではない自衛隊という憲法解釈を強制される
→冷戦後の自衛隊海外出動の歯止めとなる
戦争法から明文改憲へ
戦争法:9条の政府解釈の改変 それでもなお憲法の制約→改憲の衝動
戦争法反対側からの改憲論は日本の平和を実現するか?
戦争法に反対する側からの改憲論=新9条論
→規範と現実の乖離で憲法の威信は失われた
しかし規範が生きて国民に定着しているからこそ戦争法反対運動は盛り上がった
「改正」によって「武力によらない平和」の構想は根本的に改変されてしまう
戦争法が発動されても9条は死んでいない 「普通の国」の戦争はできない
新9条論の最大の欠陥は憲法の力に対する不信
憲法の理念と平和構想
憲法の理念は蹂躙・無視されながらもその規範が堅持された
→海外で戦争しない国を続けられた
憲法の理念は今後のアジアと日本の平和を形成するうえで堅持すべき方向打ち出す
→改憲反対だけでなく憲法の実現を目指す
第二次大戦の惨禍に対する痛苦の思い 国策の誤りへの痛切な反省
この反省の大きさが9条を生む力になった
<その他・私見>
戦後日本の「平和」の性格
最初のボタンの掛け違え 比喩の実演
現実を歴史的に捉える
この現実を作り出した歴史的経過と現実を変革していく未来像をともに捉える
現実から出発することが大切だが、現状追認にならない視点を獲得する
現実の絶対化でなく相対化 オルタナティヴを意識しながら過去・現在・未来を見る
憲法と現実
侵略されたらどうするのか、憲法の無力を衝く、という論点
そもそも憲法にそむく政治が続けられてきて形成されたのが眼前の現実
その現実に起こることの責任を憲法にかぶせるのは誤り
国家・政府ではなく諸国民に依拠して戦争のない世界をつくるという使命