平和構想学習会のレジュメ集です |
平和構想学習会(仮称)第2回 2017年12月4日
於:くらし支える相談センター
テキスト 渡辺治・福祉国家構想研究会編 シリーズ新福祉国家構想D
『日米安保と戦争法に代わる選択肢 憲法を実現する平和の構想』(大月書店、2016年)
第2章 戦争法がもたらす軍事大国化の新段階(小沢隆一)
1 この章のねらい
戦争法(2015.9.19強行採決)によって画された日本の軍事大国化の特徴を明らかにする
戦争法とは、平和安全法制整備法(自衛隊法など既存の10法律の改正を内容とする)と
国際平和支援法との総称
日米安保体制の新段階と戦争法
集団的自衛権の行使容認、他国の軍隊に対する「後方支援」の大幅な拡大・強化
PKO活動の拡張
⇒自衛隊の海外派兵体制の確立、そのための法整備の集大成
九条改憲の回避の意味
その「限界」と「矛盾」
戦争法は平和をもたらすか
2 戦争法制定までの動き
(1)第二次安倍政権成立から閣議決定まで
2012年総選挙 安倍の政権復帰
「96条改憲先行」論の挫折 「立憲主義」論の浮上 その後への影響
日米ガイドラインの改定と解釈改憲路線へ
→安保法制懇の再起動、内閣法制局長官を代える
(2)二〇一四年七月一日閣議決定
@集団的自衛権の行使容認 公明党の受け入れ可能な「限定容認」
A後方支援の事実上の全面解禁
「後方支援は武力の行使ではない」として
「他国が現に戦闘行為を行なっている現場」以外での後方支援を解禁
→「後方地域」と「非戦闘地域」という概念と「一体化論」の放棄
B米軍の武器等防護のための武器使用
C国際的な平和協力活動での任務と武器使用の拡大
PKOでの「駆け付け警護」とそこでの武器使用
「任務遂行のための武器使用」
武器使用を伴う邦人救出活動
(3)一五年ガイドライン
上記閣議決定の内容が盛り込まれた(というか、ガイドラインのために閣議決定がされた)
1978・97年に続く三つ目 その共通性
アメリカからの日本に対する軍事分担拡大の要求書
「日本に対する武力攻撃」以外の海外での事態における軍事協力
安保条約の法的枠組みさえ超えた軍事同盟強化の手段
1.法からの逃避という性格 単なる「政治的文書」という欺瞞的タテマエ
条約の実質的な変更、憲法との抵触を深刻化、国会審議に先んじて
立憲主義に反する
2.民主的統制の回避という性格 国会や国民の議論をすり抜ける
平和主義・立憲主義・民主主義を総体で破壊する
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こうした事態は、日米軍事同盟が、九条を擁する日本国憲法の存在、その規範力、それを支える国民世論の力によって、正式の「攻守同盟」たることを安保条約や関連取極によって表示することができないでいることに起因している。憲法九条によって、「不完全な軍事同盟」としての性格を日米安保体制が強いられているからこそ、その軍事同盟としての「本質」を貫徹しようとすると、自ずと「法からの逃避」「民主的統制の回避」「暗黙の了解」「密約」(核兵器に関するものがその代表例)などを駆使した非合法で反民主主義的な政治手法をとらざるをえないのである。そして、そのことによる正当性の欠落が、国民に、憲法と安保条約、安保体制との矛盾についての認識をうながし、憲法九条の実現による軍事同盟によらない平和への志向の手がかりを与えることになるのである。
98・99ページ
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3 戦争法の概要とその問題点
(1)集団的自衛権の行使容認
個別的自衛権発動を念頭に置いた「自衛権発動の三要件」
@我が国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち武力攻撃が発生したこと
Aこれを排除するために他の適当な手段がないこと(代替不可能性)
B必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと(必要最小限性)
法改正で@に「存立危機事態」を加える
「我が国と密接な関係にある他国への攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」
→集団的自衛権の「限定性」なるものは確保されていない
・「他国」が何か判然としない
・法文上「存立危機事態」は具体化されない 時々の政府の判断に依存
・代替不可能性や必要最小限性は個別的自衛権発動の際には比較的明確だが、
存立危機事態では不明確
安倍政権はどのような状況を想定しているか
どのような事例を持ち出してきたか
「邦人を乗せた米艦艇の防護」等、荒唐無稽なもの
「ホルムズ海峡での機雷除去」等、経済的困難を存立の危機とするもの
現実的に想定されるのは、朝鮮半島有事、中国・台湾間の軍事紛争
アメリカが引き起こしたり関与する東アジアでの軍事紛争に日本が協力すること
(2)「後方地域支援」から「後方支援」へ――自衛隊による支援の一挙拡大
周辺事態法→重要影響事態法 ⇒ 後方地域支援→後方支援活動
テロ対策特措法・イラク特措法:時限立法 → 国際平和支援法:恒久法
**意義** 他国軍隊に対する自衛隊の支援活動における対象・内容面での大幅な拡充
1.地理的限定がなくなる
2.支援対象国に限定がなくなる
3.「現に戦闘が行われている現場」以外ではどこでも行なえる
「非戦闘地域」概念の放棄
捜索救助活動は「戦闘行為の現場」でも行なえる
4.「弾薬の提供」や「発進準備中の戦闘機への給油」も可能に
禁止されるのは「武器の提供」だけ
→政府はなおも「外国の武力行使とは一体化しない」論を言うが、実質的に放棄
自衛隊の支援活動は武力の行使に該当し憲法9条1項に違反
もともと一体化論は国際的には通用しない 後方支援も集団的自衛権行使に該当
戦闘で捕まった自衛隊員は捕虜としても文民としても保護されない
自衛隊員の法的身分の不安定性:9条明文改憲で正式に軍隊にする衝動
107・108ページ
(3)外国軍の武器等防護のための武器使用
平時からの協力措置 情報収集から訓練・演習まで
日常的に「同盟軍」的活動展開を想定
周辺諸国との緊張高め、偶発的な武力衝突を誘発しかねない
自衛艦が搭載する砲やミサイルによって米軍艦を防護することも含まれる
e.g. 南シナ海での「航行の自由」作戦への日本の参画
(4)PKO法の適用対象、自衛隊の活動・業務の大幅拡大と武器使用の強化
「国際連携平和安全活動」:国連が統括しない人道復興支援・安全確保活動も含める
安全確保業務、統治組織の設立・再建援助業務、司令部業務、「駆け付け警護」を追加
任務遂行型の武器使用できる
(5)戦争法の法的問題点
立場による見方の違いがある
立場A 安保条約と自衛隊:違憲
立場B 安保条約と自衛隊:個別的自衛権と「専守防衛」に徹する限り合憲
集団的自衛権 両者とも違憲とする
後方支援、外国軍の武器等防護のための武器使用については主に立場Aが問題としている
(6)戦争法の実態的な問題点
○重要影響事態法と国際平和支援法に基づく「後方支援」解禁で、
随意に他国の軍事行動に「後方支援」(という名の武力行使への実質的参加)できる
「現に戦闘行為が行われている現場」ではできない、という「制限」は無意味
「戦闘行為の現場」でそもそも補給や輸送をするか
「存立危機事態」は頻繁に起こらないだろうが、「後方支援」は多用される恐れあり
米軍などからも歓迎されるだろう
○「外国軍の武器防護のための武器使用」も演習などでの突発的な軍事衝突に利用できる
平時から有事へと展開していく危険性 集団的自衛権行使に結びつく
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改正国際平和協力法による自衛隊のPKOその他での活動の拡大は、「国際社会の平和実現」を前面に掲げてその正当性を訴えるが、その実態は、「有志連合」型の活動など国際的正当性に難点をもつ軍事行動への自衛隊の参加を広げる。それは、自衛隊にとって軍隊としての熟練の重要な機会となり、また国際的ステイタスの確保の場として位置づけられているのであろう。しかし、それは、他国の「正式の軍隊」並みに危険な戦闘にかかわることを意味するのである。そして、こうした軍事行動が、紛争地域の民衆の怒りを誘い、日本がテロの標的となる「口実」とされることも懸念される。 114ページ
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4 「安全保障環境の変化」論は成り立つか
(1)戦争法違憲論の広がり
2015年6月4日 衆院憲法調査会 憲法学者3人全員:「違憲」発言→「潮目」が変わる
日弁連、全国の単位弁護士会、歴代内閣法制局長官:違憲
憲法論では分が悪くなった政府・与党 戦争法の国会後半審議で戦術転換
7月13日 衆院安保特別委員会の中央公聴会 与党推薦人の公述 や
7月28日 参院安保特別委員会 佐藤正久(自民党、自衛隊出身)質問 から
「安全保障環境の変化」論と「抑止力」論を押し出す
(2)南シナ海をめぐって
佐藤正久:中国のA2ADによる南シナ海におけるプレゼンスの増大を警告
A2AD:Anti-Access/Area Denial(接近阻止・領域拒否)
中国軍の戦略と能力に対するアメリカの性格付け→中国に対する脅威認識の軸
空母という高価で貴重な兵器を、ミサイルやサイバー攻撃という安価で手軽な手段によって無力化してしまう経済的効率性の高い手法
→空母打撃群によって支えられた米軍の海の支配を減退させる
米軍事戦略にとって深刻な脅威
cf 2015年ガイドライン「平時からの協力措置」
1.情報取集、警戒監視及び偵察
2.防空及びミサイル防衛
3.海洋安全保障
4.アセットの防護→改正自衛隊法「米軍等の武器等防護のための武器使用」
中国のA2ADによるミサイル攻撃から米軍の空母打撃群を守る「ミサイル防衛」
→ミサイル防衛は日本領土を守るよりもここに意味がある
「平時からの協力」は偶発的な衝突から日米共同の軍事対処へ
集団的自衛権の前倒し公使の危険性
確かに南沙諸島などでの中国の行為は覇権主義大国化の現れだが…
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しかし、中国のそうした行動の背景にはアメリカの軍事力との対抗を濃厚に意識したA2ADがあり、これに対して、当のアメリカは、一〇年の「四年ごとの国防見直し」で「エア・シー・バトル(Air Sea Battle:ASB)構想」を打ち出して、海軍力・空軍力、宇宙衛星やサイバー空間を駆使して、かつ在日空軍基地の機能と自衛隊の支援も当然に織り込んで、中国のミサイル能力の減殺をねらっている。中国の南シナ海での強硬策は、こうしたアメリカとの間での海洋の軍事的プレゼンスをめぐる「鞘当て」のなかの一コマであること、米中の軍事的覇権の争奪戦のなかから生まれていることを、しっかりと把握しなければならない。 121ページ
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米中全面戦争は考えにくいが、「万が一に備える」という軍事の世界では自縄自縛に陥る
戦争法は米の「同盟国」としてこの対立構図への深入り
日本の取るべき姿勢 戦争法を廃止して 沿岸諸国と協力して
南シナ海での米中対立を放棄させるようにする
(3)「日米同盟強化=抑止力の向上=平和の実現」という三位一体
前掲・佐藤正久質問への安倍首相答弁
切れ目のない平和安全法制の整備で日米同盟が揺るぎないことを示して抑止力を強化して戦争を防ぐ、という立場から以下のよう、軍事同盟の本質=「同盟による抑止」を語る
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平和安全法制が整備されれば、例えば平素から米軍の艦艇等の防護を行うことが可能となり、自衛隊と米軍の連携した警戒態勢等の強化につながってまいります。また、重要影響事態に置いては、米軍に対してより充実した支援を行うことが可能になりまして、存立危機事態においては、自衛隊と米軍の一層緊密な協力が可能となります。さらに、これらの新たな活動を効果的に遂行するため、平素より幅広い種類の訓練や演習を実施できるようになります。
こうしたことによって、これらにより様々な危機に対する日米の共同対処能力は飛躍的に向上し、もし日本が危機にさらされたときには、日米同盟は完全に機能するようになると言ってもいいと思います。また、そのことを世界に発信することによって、紛争を未然に防止をする力、すなわち抑止力は更に高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていく、こう考えるわけであります。 123ページ
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(刑部コメント)
「平和は軍事力によって作られる」という立場をいったん承認してしまえば(安保・自衛隊を肯定する多数派世論は事実上その立場に立っている)、安倍のこの弁明は非常に強い説得力をもって受容される。反論にはその立場自体への不承認か、あるいは情勢の検討を通じて戦争法の現実的危険性を説くことになる。何か起これば「国難」を言い立ててタカ派が選挙を制するという状況の克服が課題。
テキストのコメント
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日本の自衛隊が「平素から」の「米軍の艦艇等の防護」と称して南シナ海で活動をはじめれば、中国との緊張関係はいやがうえにも高まらざるをえない。偶発的な衝突に巻き込まれることもありうるだろう。何よりも、アメリカにつき従って南シナ海での「海の支配者」として君臨する高揚感にひたる自衛隊ほどグロテスクな存在はない。そうした姿は、憲法九条とまったく相いれないものである。 124ページ
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(4)北朝鮮の脅威をめぐって
日本の国土全域を標的にするのだとしたら防ぎようがない北朝鮮のミサイル攻撃、もともと日本防衛を重視しないアメリカのミサイル防衛構想、にもかかわらずあくまでそれに固執する日本政府。 127ページ
北朝鮮にとっての核・ミサイル開発の意義
1.イラクやリビアの二の舞とならない軍事態勢・抑止力
2.交渉カードとして経済援助を引き出し現体制の存続を図る
→核先制使用の動機は少ない
主な交戦相手は米韓であり、それを抜きにした日本攻撃は意味ない
北朝鮮問題の解決は「六ヵ国協議」の場などを通じた粘り強い平和的外交交渉による
日本の戦争法は米国の軍事的脅威におびえる北朝鮮にとって脅威の増大であり、
北朝鮮の軍事態勢の強化をもたらし、外交交渉の阻害要因
その廃止は平和実現の前進要因
北朝鮮の核とミサイルは、アジアにおける核戦略情勢と連動する形でしか解決されない
朝鮮半島の非核化 下記によって追求
米ロ中の核政策の変更(核軍縮から核廃絶へ)
日本のアメリカの核の傘への依存政策の変更(核軍縮・核廃絶へのイニシアの発揮)
5 結びにかえて
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以上、戦争法は、アメリカを中心とする軍事力の行使に集団的自衛権を行使して参画するばかりでなく、「重要影響事態」などでの「後方支援」や、とりあえず「平時」における活動とされる警戒監視や演習での連携の強化などによって、協力のレベルを格段に引き上げるものである。それは、安倍首相のいう「切れ目のない安全保障」「安全保障環境の変化に対応する抑止力の向上」どころか、国際的な緊張をアジアと世界で高めることにつながり、かえって安全保障環境ないし平和情勢の悪化をもたらすものといえる。このような動きに対する対抗軸は、第7章で論じられる。 129ページ
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<トピック>
2017年に同時並行した核兵器禁止条約(7月7日採択)と米朝戦争危機への姿勢
○ASEAN外相・関連会議(8月5〜8日)
米朝対話を求める(ただし河野太郎外相は「今は対話の局面ではない」と公言)
核禁条約には強い支持
○日米安全保障協議委員会(2プラス2、8月17日)「共同発表」
米国の核戦力による同盟のコミットメントの再確認
新ガイドライン(2015年2プラス2で決定)の実施の加速化と
戦争法(2015年9月成立、2016年3月施行)下でのさらなる協力の追求
メディアは「日米同盟」を当然の前提として報道→「国民の常識」として定着
それだけにASEANの姿勢の対極性と積極的意義は重要
⇒「武力による平和」をめぐる対決
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平和構想学習会(仮称)第2回 (補遺) 2017年12月4日
北朝鮮情勢をめぐる論文・記事の紹介
山根隆志「北朝鮮問題と日本の安全保障」(『前衛』2017年12月号所収)
偶発や誤算から戦争に発展する可能性
e.g. 9月15日北朝鮮のミサイル実験後、日本海上の米駆逐艦、
国防総省から「警戒命令」受け、巡航ミサイル「トマホーク」発射準備
米韓合同演習
3.1〜4.30 「フォール・イーグル」 約31万人参加
8.21〜31 「乙支フリーダム・ガーディアン」 約6万7千人
10.16〜20 ロナルド・レーガン空母打撃群他、米韓40隻以上
米ICBM発射実験 4.26、5.3、8.2
ティラーソン国務長官とマティス国防長官連名寄稿(8.14WSJ)
「これ以上の軍事挑発を停止すること」を条件に交渉の意思あり
→「非核化の意思と行動」という条件からハードル下げる
関係国による対話は、今日の危機打開を「入口」とし、朝鮮半島の非核化と平和メカニズム構築を「出口」として取り組まれる必要がある
○国民が知らないところで戦争に参加する戦争法の危険性
自衛隊の海外での武力行使を可能にする仕組み
@「戦闘地域」での米軍等への兵站の拡大
A戦乱が続いている地域での治安活動
B地球のどこでも米軍を守るための武器使用
C集団的自衛権行使
今年5月、戦争法の発動
ヘリ空母「いずも」による補給艦への「米艦防護」
海自の補給艦による米イージス艦への「燃料補給」
小野寺防衛相の発言
グアムへ向かうミサイル→「存立危機事態」に当たり得る
戦略爆撃機B1の日米共同訓練実施 軍事的緊張を高める
米軍機が北朝鮮を攻撃するとき「重要影響事態」を認定して後方支援するか?
→総合的に判断
○ミサイル防衛
すでに1兆8千億円近く投入 イージス・アショア等、今後際限なし
役に立たない
←飽和攻撃、地下に格納や移動式で発射の探知困難、ロフテッド軌道による高速落下
○敵基地攻撃能力 安倍政権が追求
地下格納や移動式ですべてのミサイルの位置把握は不可能
→残存ミサイルによる報復攻撃受ける 非現実的かつ危険
○核共有論 日本の米軍基地に核配備
非核3原則を1.5原則に NPT違反、日本の信用を傷つける
『世界』2017年11月号 特集「北朝鮮危機――解決策は対話しかない」
*平井久志「持久戦覚悟の粘り強い対話しか道はない」
*<緊急討論会記録>村山富市、小此木政夫、伊豆見元、美根慶樹、李鐘元、吉田進、小牧輝夫、木宮正史、和田春樹「北朝鮮危機と日本のなすべきこと」
*李南周「『リアルな問題』になった北朝鮮の核と韓国の選択」
トランプ政権の北朝鮮政策
すべての政策オプション(戦争から核保有国として認めることまで)を検討した結果
「最大限の圧力と関与」
1.北朝鮮を核保有国として認めない 2.すべての制裁と圧力を強化
3.「北政権交代」を推進せず 4.最終的には対話で問題を解決
→どういう状況が生まれれば対話に転じるのかという中身がない
結局は、北朝鮮が核実験やミサイル発射を中止し、国際社会がそれに対する対価を用意するという、北朝鮮の核ミサイルの凍結を入り口にし、非核化へ向けた長い交渉に入るしかないだろう
「言葉の戦争」は偶発的な軍事衝突に連動しかねない
e.g. 「太平洋上で水爆実験」と言及すれば、太平洋上に飛来するミサイルに何がついているか分からないので迎撃する可能性がある
○先制攻撃:非常にさし迫った危機に直面した際に、攻撃によるダメージを未然に防ぐために先に叩くこと
○予防攻撃:さし迫った脅威になる前に予防する。すべてをつぶすことはできないので必ず報復が来るから予防戦争に拡大する。
北朝鮮の核・ICBM開発が完成すれば米国はあえて犠牲を払っても対北軍事力行使に踏み切るかもしれない
今求められるのは、北朝鮮のICBM開発を凍結すること
抑止力としてのSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)開発には数年かかる
米国でさえ体制の転覆は考えていない、と言っているのに
不完全な情報に基づいて米軍の動きを勘違いして、2の危機感から北朝鮮が暴発する可能性はある
威嚇にメンツが絡んで衝突がエスカレートするケースも考えられる
○経済が圧迫されることと、北朝鮮がそれで核ミサイル開発をやめるかということは別
プーチン「北朝鮮は草をかじっても核実験は止めない」
安倍はそれを考えずに発言している
北朝鮮の国民は核被害の甚大さについてほぼ無知 恐ろしさを伝えるのは日本の責任
米中の相互無責任体制 中国は圧力を決定的にはかけず、米国は交渉しない
対米交渉用→韓国・日本にたいする外交圧力に利用
米国の軍事的措置は全面戦争になる
北朝鮮は壊滅しても残存能力で在日米軍基地、原発等を攻撃する
⇒日本としては
1.米国にどんなことがあっても軍事的措置を取らないように求める
2.北朝鮮をなだめて対米威嚇を弱めさせる
→日朝国交正常化に踏み切り、平壌と東京に大使館を開き、経済協力問題、拉致問題、核ミサイル問題について交渉を開始
日本は米朝間に体を入れて戦争を防ぐ 憲法に基づく平和外交
→北朝鮮の核ミサイル開発が放置され完成に近づく
現局面:大規模な軍事衝突へと進みうる極端な対立局面への進入か、
対話と妥協への劇的な転換か、という岐路
◎自己破滅的なゲームから「ウィンウィン」ゲームへ (李南周、105ページ)
惰性的思考を脱し、状況に対する客観的な判断と実現の可能性を考慮した解決策を
非核化を前提条件に掲げる対話の可能性はないという現実を認め、
北朝鮮の現在の暴走を止めうる提案を携えて対話を
・米韓合同軍事訓練の中断や大幅な縮小・経済協力を含む提案
核ミサイル開発を凍結させうるなら、問題解決への新たな接近となる
非核化は信頼構築の結果であり、前提ではない
ゲームの舞台を変え、軍事的競争から社会と経済活力の強へ進むなら屈服でなく成功
柳沢協二(元内閣官房副長官補)「北朝鮮情勢と米艦防護」(「朝日」8月22日付)
脅威の質が変わった
1990年代 朝鮮半島が脅威 今、日米にミサイルが飛んでくる
米艦防護の先には、日本が戦争の当事国になる可能性あり
戦争法で選択肢が増えた→日本が戦場になることも選択肢に入った、ということ
在日米軍の存在が北朝鮮にとっての攻撃の動機
「日本がミサイルから安全であることと、米国が主導する世界秩序を守ることは、実は両立しない。今問われているのはどちらを優先するか、なのです」
日本に被害がないことが前提ではない
戦争で人が死ぬことほど、高いコストはない。その上で、何をどう守るかを考えることが自主防衛だ
田中均・元外務審議官「米朝軍事衝突の危険 外交的解決が最優先」(「赤旗」9月9日付)
北朝鮮のミサイル・核開発は抑止力にならない かえってリスクを引き上げる
金正恩にとって米国と闘う姿勢を見せることが統治の方法
1.北朝鮮と中国に対して、核・ミサイル開発が米国の行動を引き起こすリスクがあることを理解させる
2.北朝鮮・中国・ロシア・日本・韓国・米国の共通の利益:朝鮮半島の非核化
中国にとって:北朝鮮の核による韓国への核ドミノは中国の不利益
北朝鮮にとって、核兵器と共に生き残ることはできないが、
放棄すれば生き残れることを示すことが必要
ティラーソン米国務長官の北朝鮮の体制保障発言が交渉の出発点
平和協定、米日との国交正常化、投資・エネルギー協力
中国は石油禁輸を含む厳しい経済制裁措置に参加すべき
→核兵器と共に生きられないことを示す
ウィリアム・ペリー元米国防長官「どうする北朝鮮問題」(「朝日」11月29日付)
1994年の北朝鮮危機に最前線で対処
北朝鮮、プルトニウムを抽出する再処理の開始を発表
抽出阻止のため寧辺の核施設を巡航ミサイルで破壊する軍事計画を作成
日本の羽田首相 戦争で日本の航空基地を使うことを承認し、不公表を要請
しかし韓国への攻撃を避けるため外交的解決を模索
94年危機は「米朝枠組み合意」で収束
現在は94年よりはるかに深刻 北朝鮮への先制攻撃は不可能
金正恩は賢くなく無慈悲で見境がないが狂ってはいない。合理的である
対話否定論について
対話のときかどうかは議論のあるところだが、議論の余地がないのは「いまは核戦争をするときではない」という点だ 外交で必ずしも良い結果が出るかどうかはわからないが、対話しなければ、そもそも良い結果は得られない
日本の指導者は外交の失敗がもたらす帰結を理解する必要がある
外交の不在や見境のない発言は戦争に、核戦争に突入する条件を醸成してしまう
実行可能な軍事オプションはない
目標を持つことが推進力になる
外交官に必要なのは「舌先」より「耳」
相手が何を言っているのか、何を信じているのか、耳を傾ける必要がある