これは米田徳治氏の論文「電機情報産業での大リストラ攻撃と人権・尊厳を守る闘い」のレジュメです |
米田徳治(電機・情報ユニオン委員長)
電機情報産業での大リストラ攻撃と人権・尊厳を守る闘い
大企業職場における労働組合活動の前進と職場の自由と民主主義の確立めざして
『経済』2020年7月号所収
はじめに
電機・情報ユニオン(2011年9月、全国単一の産業別労働組合結成)
労働者の雇用・生活と権利を守り、職場の自由と民主主義の確立へ運動
電機情報産業大リストラ策と対抗 国際労働基準を職場で生かす闘いで展望を開く
1 経営指標からみる電機情報産業の現状
1998年度から2018年度まで20年間の変化 財務省「法人企業統計」で見る
大きな変化点:リーマンショックの2008年度での低迷による変化
産業分類:電機器具製造業と情報通信器具製造業を「電機」で一本化
*企業数
資本金10億円以上 全産業 5310社 → 5026社 5.3%減
電機 386社 → 310社 19.7%減
全規模 全産業14.0%増
電機 31.2%減
*従業員数
資本金10億円以上 全産業 724万9877人 → 760万466人 4.8%増
電機 93万9882人 → 63万9898人 31.9%減
全規模 全産業13.4%増
電機 33.2%減
売上高、営業利益の1998年度比の推移をみる
*売上高 全産業 13.2%増
電機 16.9%減 1998:52.2兆円 2007:63.8兆円 2018:43.4兆円
*営業利益 全産業 2.39倍
電機 2.39倍 2000:2.9倍 2001と2008:赤字 その後、上下
電機産業――内部留保だけは増加
*内部留保 全産業 2.57倍 電機 1.34倍
*設備投資 資本金10億円以上 全産業 7.6%減 電機 13.4%減
*人件費 資本金10億円以上 全産業 0.2%減 電機 23.0%減
従業員一人当たりの指標では電機も他産業と遜色なし
◎資本金10億円以上の企業について従業員一人当たり
*売上高 全産業:1.1倍 電機:1.22倍
*営業利益 全産業:2.28倍 電機:3.5倍
*内部留保 全産業:2.45倍 電機:1.97倍(2235万円 → 4405万円)
→ 毎月賃金を3万円以上引き上げても十分補うことができる財源を留保
◎全規模企業について従業員一人当たり
*内部留保 全産業:2.91倍 電機:2.12倍(1294万円 → 2749万円)
輸出入から見た電機産業の立ち位置 (財務省「貿易統計」から)
◎1998年
*輸出 総額:50兆9379憶円 電機:11兆7492億円(23.2%)
*輸入 総額:36兆6536憶円 電機: 4兆65億円(12.3%)
◎2019年
*輸出 総額:76兆9275憶円 98年比1.52倍
電機:13兆2077億円(17.2%) 98年比1.12倍
*輸入 総額:78兆5757憶円 98年比2.14倍
電機:11兆9864億円(15.3%) 98年比2.66倍
電機の輸出は全輸出の17・2%、輸入は全輸入の15・3%
電機の輸出の伸び率 2007年がピーク 09年にはピークから36.5%減
その後、一般機械に追い越される
電機の輸入の伸び率 09年にピーク時から30.1%減 その後急速に増加
19年には鉄鋼・自動車・一般機械の合計を上回る
※海外との輸出競争力を示す貿易特化指数(純輸出額÷総貿易額)
電機は鉄鋼・自動車・一般機械より顕著に低下
2 止まらない電機情報産業のリストラ
2011年 パナソニック4万人の人員削減・リストラ策発表が始まり
2009年 三洋電機を吸収合併 日本最大の電機メーカーに
当時 売上11兆円、関連会社800社、従業員40万人
現在 売上8兆円、連結子会社582社、従業員27万1264人
電機情報産業の人員削減を中心とするリストラは止む気配なし
114企業の社員250万3773人の内、公表されただけで、50万8416人が人員削減・対象
労働者の20.3% !! (電機・情報ユニオン調査、2019.7.1現在)
11年以降、1万人以上の人員削減 10社で、44万6645人
パナソニック:12万8451人、東芝:7万7390人、ソニー:5万3800人
日立:4万4349人、富士通:4万1017人、ルネサス:2万9226人
リコー:2万8754人、NEC:1万7013人、シャープ:1万5645人
TDK:1万1000人
44万人リストラの10社企業の経営指標 11年3月期→19年3月期で見る
*従業員 168万246人 → 132万4723人 35万5523人(21.2%)減
*売上高 46兆2090億円 → 43兆2601億円 2兆9489億円(6.4%)減
*営業利益 1兆5952億円 → 2兆6318億円 1兆366億円増 1.65倍
営業利益率 3.5% → 6.1%
*純利益 1202億円の赤字 → 2兆8565億円の黒字
売上高は減少しているが、人員削減によって、営業利益は増やし、
内部留保は積み増している → 黒字リストラの実態
*内部留保 15兆2444億円 → 16兆1154億円 8710億円(5.7%)増
*従業員一人あたりで見る
売上高:1.18倍 営業利益:2.09倍 内部留保:1.34倍(907万円→1217万円)
3 職場で行われるリストラ策の実態
■ルネサス
国策会社:産業革新機構からの資本金出資69%
日立・三菱・NECの半導体事業を統合した半導体専業メーカー
労使合意で、12年5月からリストラ面談開始 目標5700人に対し7500人が応募・退職
管理職に対して1298人の降格人事
子会社売却・工場の閉鎖・縮小を続ける一方で、
米半導体会社を1兆円超で買収 → 借金経営
※産業革新機構の融資決定(12年12月)以降でも2万5000人の削減
現在1万8958人
労働条件の切り下げと賃金格差の拡大
賃金の一律7.5%カット、労働条件の切り下げ(家族手当等の廃止)
→ 毎年、労務費1000億円削減効果
労使合意で、差別・選別の賃金制度を導入
一時金の格差 13年:1.8〜2.3倍 20年:8.5倍
勝手に「低評価」してリストラ名簿に登載
19年1月からのリストラ策で人格無視の退職強要面談 → 2000人以上が退職
電機・情報ユニオンの反撃ビラに対して
会社は過大投資による経営難を労働者犠牲で乗り切ることを表明
■NEC
リストラ策・退職強要面談は労使合意が合図
「3000人リストラ」の手口
18年1月 マスコミにリストラ策をリーク、労組幹部の批判、社長が直接職場で説明
一時休戦
18年6月 労使合意 マスコミに流す 退職強要の開始
「あなたには明日から仕事はない」と「圧迫面談」
封筒付アンケート用紙と反撃ビラで労働者を励まし闘う
本社に団交申し入れ、行政への働きかけ、労働局に「退職強要面談中止」申し入れ
→ 労働局からの「助言・指導」で一部の面談が止まる 地域にも呼びかけ門前宣伝
170通を超えるアンケートが届く 経営者への厳しい批判と退職強要面談への不安
相談できるのは電機・情報ユニオンしかない
今回は既存労組に相談に行った話を聞かない
リストラ名簿はどのようにして作られるのか
「3000人リストラ」後も、黒字・常時リストラの常態化
一時金の業績評価分布:5%を常時リストラ要員として識別 → 労使協定あり
■東芝
粉飾決算による経営の毀損を身勝手な人員削減のリストラ策で
乗り切ろうとする横暴
粉飾決算の原因:米原発会社ウェスティングハウス(WH)買収の負担
WH買収後にアメリカでの政治献金が跳ね上がる
→ 「トラの子」のメモリ事業の売却にまで追い込まれる
再生プランは人員削減のリストラ策、その説明は職制
事業改革で分割された企業ごとに人員削減・リストラ策が労使合意により職場で実施
e.g. 東芝デジタルソリューション:53歳以上が対象
説明は労組でなく職制が行ない、職場討議はしても採決しない:労組の機能を放棄
リストラ策に勇気を持って闘う困難さ
電機・情報ユニオンに辿り着いても決意の固まらない労働者がいる 団交に結びつかない
電機・情報ユニオンに近づくなという口コミ
しかし「東芝グループ行動基準」制定 → 人権・労働慣行の実践義務
CSR(社会的責任)経営を進める以外に再生の道はない
■日立
「賃下げを会社に要求」を採用した日立
電機各社:「定期昇給」部分を査定する差別と選別の成果賃金体系を導入
日立労組の春闘要求案:「K5」評価の人は降給
組合員の権利を無視して労組が賃下げを会社に要求
日立から他の企業へと拡大 沖電気も賃下げ要求
4 全国組織としての産業別労働組合の役割は決定的
■電機・情報ユニオン
1978年、沖電気で指名解雇(大企業では長らく死語だった) 所属労組の支援なし
解雇された労働者は全国支援求め、1987年、職場復帰を含む和解
労働者の要求に基づく闘いの交流を続け、
電機労連(現電機連合)と日本電機工業会に要請
2011年 全国組織としての産業別労働組合、電機・情報ユニオンの結成
未組織労働者の組織化だったが、退職強要受けたのは正規労働者
リストラとの闘い続く
■退職強要は人権侵害そのもの
電機大企業では信じられない人権侵害が横行 → 労組の機能低下が明らか
職場に入れば憲法は通用しない 職場で声をあげられない労働者が
インターネットで電機・情報ユニオンを探し求めてくる
■国際労働基準を労働組合活動、運動に生かす
電機大企業のリストラ策は人権侵害そのもの → 国際労働基準の順守を求めて運動
1991年 国連グローバル・コンパクト9原則が策定 → 2004年、10原則に
(趣旨)グローバル化、市場拡大に社会・政治システムが追い付かない
経済・社会・政治のアンバランスは継続不可能
∴ 人権・労働基準・環境保護から取り組み始めるべき
これは企業の果たすべき原則だが、労組にとっても支持し順守させる運動が重要
企業にとってなぜ人権が重要か
人権に関する責任は主に政府にあるが、個人や組織も人権の支持と尊重に重要な役割
ビジネス界には人権を侵害しない責任がある
「法の支配の促進」:人権が尊重される社会はより安定し、ビジネス環境も優れる
■社会的責任に関する国際規格ISO26000を労働組合運動に生かす
ISO(国際標準化機構)での下記による規格開発作業
各国組織の推薦する6つのマルチステークホルダー
産業界、政府、労働、消費者、非政府組織(NGO)
およびサービス・サポート・研究・その他(SSRO・研究者等)
→ 2010年 「社会的責任国際規格ISO26000」発行
2008年 「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関する事務総長特別代表」から
国連人権理事会に「保護・尊重・救済:ビジネスと人権のフレームワーク」報告書提出
2011年に最終報告「人権と多国籍企業およびその他の企業の問題に関する事務局長特別代表、ジョン・ラギー報告書」「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合『保護・尊重及び救済』枠組実施のために」が提出され採択された
⇒国家の義務・企業の責任・実効的な救済手段の容易化について
「国家は国際人権体制のまさに中核にあるが故に、国家には保護するという義務がある。人権に関して社会がビジネスに対して持つ基礎的な期待の故に、企業には尊重するという責任がある。そして細心の注意を払ってもすべての侵害を防止することは出来ないが故に、救済への途が開かれている」(117ページ)
■初回団体交渉では、電機・情報ユニオンの活動の基本「国際労働基準の順守」を表明
開始される団交では、企業のCSR指針に対して、電機・情報ユニオンの見解を述べる
経団連:2017年、企業行動憲章を改定 人権尊重項目を追加
日立:「日立グループ人権デュー・ディリジェンス・ガイダンス」作成
しかし人権無視の退職強要の事実を団交で突きつけても、行なってないと居直り
→ 国際労働基準に沿った労働基準を求める活動は決定的
■行政、省庁交渉、現行法制の活用と通達の新たな発出をもとめる運動
産業別労働組合として、職場の要求を産業別にも具現化する取り組みを重視
電機業界・経営者団体への要請行動で生かす
→ 職場の深刻な実態を理解してもらい、電機業界の持続的発展へ
政府・省庁への要請行動 全労連・東京地評との三者共同行動
共産党国会議員団の力も借り、職場労働者も参加して職場の実態を告発
国政調査権を生かし、直接省庁担当者への聞き取り調査・レクチャーを行なう
■運動の中で出させた通達を労働組合活動、運動に生かす
リストラ策に対する地方労働局の活用
「退職強要に対する助言・指導」として大きな力
厚労省内で活用されている「個別労働紛争解決業務取扱要領」の提供
労組活動にとっても、直接労働者が労働局に訴えるマニュアルとして威力を発揮
■電機産業政策提言を掲げて
「人々が幸福に暮らせる豊かな社会づくりに貢献する産業政策」として
産業本来の役割を実現する方法を追求することを労働者の視点からつくった電機産業政策
(119ページ)
@雇用と地域経済を守り、人々に社会参加の機会と生活を支える手段を確保する。
A人と技術を大切にして、多様な個人がやりがいを持って能力を発揮できる労働環境を構築する。
B平和産業に注力し、原発ゼロを推進して、私たちの仕事を通じて、平和で豊かな環境をつくる。
C国際労働基準を遵守して、グローバルなルールに則り、人権と産業の発展を両立する。
5 リストラ策に抗する労働者と共に闘い、励まし合う産業別労働組合活動を
日本の大企業職場では、労働運動が極端な形で資本・企業の側に押さえ込まれている
→ 電機情報産業のリストラとの闘いで、ILO(国際労働機構)の存在は大きい
**大企業職場の中で展望を見いだせるか?
リストラは止まっていない しかし、労働者は
産業別労組=電機・情報ユニオンに加入して共に闘う決意さえすれば
どの企業とも団交を通じて働く権利を守るため闘える
電機・情報ユニオンは、職場で、労働者の状態、その中での不安と要求をつかみ
経験と成果を宣伝 → 「封筒付リストラアンケート」と政策宣伝ビラが力を発揮
労働者の人権を守り、職場の自由と民主主義を求める闘いにこそ活路があり、前進できる