これは「消費税をなくす全国の会」からの依頼原稿と解説文です


              祝「ノー消費税」200号

        <本文>     

 福田政権の消費税増税の姿勢に合わせて、多くのマスコミが動員されています。「グローバル競争に備えて大企業を優遇し国民に負担を求める財政運営が必要」というエリート主義的使命感による「啓蒙」活動がおそらく彼らの狙いでしょう。今こそ理論的にも高く、庶民の痛みもわかった「ノー消費税」の出番です。199号には消費増税の「朝日」社説に対する見事な反論の他に、介護ヘルパーの切実な思い、各地の「消費税をなくす会」の多彩な怒りの宣伝が掲載されました。「全国の会」が会員の疑問にもていねいに答えてきた200号。この積み重ねが増税阻止への跳躍台となることでしょう。
        →「ノー消費税」第200号(2008年3月)に一部修正して掲載

       

 

        <余談>

      消費税をなくす全国の会御中

 お世話になっております。「ノー消費税」200号、おめでとうございます。

 調べたわけではありませんが、「消費税をなくす会」というのは「九条の会」と並んで日本独自の運動体ではないでしょうか(「九条の会」は外国にも若干あるようですが)。大型間接税(以下では日本の現行制度に合わせて「消費税」と呼びます)は、第一次世界大戦のときドイツに戦費調達を目的として導入されたのが始まりだそうです。だからヨーロッパでは消費税は長い歴史を持つとともにその出生の秘密は戦争と不可分です。もしヨーロッパに「消費税をなくす会」のようなものがないとすれば、古くからある消費税が生活に定着しているという事情とともに、軍事同盟NATOの存在とも関係があるのではないでしょうか。冷戦期ほどではないにしても、今なおNATOはアフガニスタンなどに展開しており、平和の障害であることには変わりありません。このNATOを背景に各国は軍事政策を展開しています。ヨーロッパにおいて軍事費がどの程度、消費税に依存しているかは分かりませんが、日本よりも国民経済における軍事費と消費税の割合はともに高いでしょう。軍事的にも支配層にとって消費税が不可欠であると判断され、それが国民にも影響を与えているのではないでしょうか。もっとも以上のヨーロッパの事情はあくまで推測ですので事実が違っておればご教示くださると幸いです。

 日本ではだいぶ定着してきたとはいえ、消費税は新参者です。その導入の1989年以前に、直接税を中心とした税制下で日本資本主義は高度成長を経てすでに国民経済として成熟していました。私を含めてその記憶を持つ国民が多く存在しています。消費税のない経済生活の経験からは、しかるべき理由と必要があれば消費税をなくすべきだしなくせる、という発想が容易に生まれてきます。また自衛隊は世界有数の軍隊であるとはいえ、憲法九条を持つ日本社会は平和意識が高く、これが軍事費の上昇を抑制し、相対的に平和的な経済発展を実現してきました(日米軍事同盟の存在、朝鮮戦争とベトナム戦争の影響などを見落としてはなりませんが、軍産複合体が経済の中心になることはなかった)。こうした実績をしっかり踏まえるならば、6ヵ国協議の進展による東北アジアの平和実現をにらみつつ、私たちは軍事同盟・軍隊と消費税のない社会を目指すことができます。根のない理想ではなく、日本人の意識にフィットしたものとして。この理想はヨーロッパの福祉国家を超える平和福祉国家と言えます。「消費税をなくす会」は「九条の会」ほど有名ではないかもしれないけれども、ともに相携えて世界一の理想を目指す日本のユニークな運動体ではないでしょうか。

 私たちは日本の現状を「ルールなき資本主義」として、当面せめてヨーロッパ並みの「ルールある資本主義」を目指しているのも事実ですし、これは切実な課題です。しかし欧州モデルは最終ゴールではありません。高率の消費税と軍事同盟をともなった福祉国家は理想的でないだけでなく、日本の国柄(あえて体制派的な用語を使いますが)に合いません。日本人が伝統的に培ってきた温和で平和的なやさしさにふさわしい社会へと、その政治経済を変えて行くべきです(もっともこの目指すべき社会像の違いは、国柄というより、社会民主主義と科学的社会主義との立場の違いと言うべきかもしれませんが、ここでは措きます)。靖国派の連中に言ってやりましょう。日本の民主勢力は自虐的どころか、過去の正しい反省の上に日本の条件・国柄を踏まえて、世界で最も先進的な社会を目指す誇りを持っているのだと。

 どうも大ぶろしきを広げすぎました。「九条の会」にしても「消費税をなくす会」にしても遠い理想をすぐに実現しようというのではなく、当面の切実な課題に取り組んでいます。「九条の会」は自衛隊を認める人も含めて、改憲を阻止することが至上命題です。「消費税をなくす会」は消費税率アップを阻止することが緊急課題です。昨年の参議院選挙の敗北は政府・与党にとって深刻であり、従来のような民意無視の政治が続けられなくなりました。それだけに彼らの危機感は強烈であり、消費税についても一旦引き下がったように見えましたが、今では増税への気運の盛り上げに必死です。あからさまに民意を無視できないなら、民意そのものを都合よく変えてしまおうとばかり、マスコミを動員してイデオロギー攻撃を強めています。これに対して我が「全国の会」も負けない危機感をもって機敏に対処しています。「ノー消費税」第199号に朝日新聞への申入書(消費税増税の社説を批判する内容)が掲載さていますが、同号の杉田聡氏の投書にまったく同感で、こうしたマスコミ対策はこれからますます必要になってくるでしょう。

 増税反対運動にとって最大に依拠すべきものは国民の生活実感でしょう。世論調査においても、「福祉のためなら消費増税もやむをえないか」という誘導尋問的な質問に対してさえも反対が多数です。生活の厳しさに政治不信が重なって簡単には納得しない、というところでしょう。しかし問題は、もともと政策に関する民意と国会内の議席配分とはいちじるしく乖離しているのが普通だということです(この問題について議論していくと長くなるので所与の条件として前提します)。いうまでもなく立法は世論調査結果でなく議席数に左右されます。直近の参議院選挙では民主党は消費税増税を引っ込めていましたが、いつ本来の増税路線に戻るか予断を許しません。早い話が、消費税に反対している共産党が選挙で躍進すれば決定打になるのですが、なかなかそれは難しいし、大衆運動の課題でもありません。「消費税をなくす会」としては、各党の政策をわかりやすく国民に提示するとともに、どのような政治情勢となっても自民党や民主党がびびって増税できないような圧倒的な世論を作ることが肝要です。

 人々の心の琴線にいかに触れるか。まずは上述の生活実感です。しかし自分のことは差し置いても「大義名分」とか「大所高所から」などといって、全体がよくなるように、要するに企業や国のために、という「正義感」の発想をする人が、日本人には今でもけっこう多いものです。正義感とまでいかなくても、全体のために諦めるしかない、という発想もよく見られます。

 今、私たちは、福祉を支える財源について、消費税率を上げなくても、軍事費を減らしたり、大企業や大資産家に応分の負担を求めることで可能だ、と提起しています。これは単なる財源問題でなく経済のあり方を問うことにつながります。日本資本主義は、輸出を先頭に国民生活を抑制してでも資本蓄積を優先して高度成長を実現してきました。この生活犠牲モデルが特にバブル崩壊後は全く破産したといえます。今日ではジャパン・パッシングなどと言われるように、新興国はもちろん、アメリカやEUと比べても日本の地位低下は明確です。それはまず経済成長率が非常に低いことから来ます。もちろん高ければいいというものではないし、低くても内容がよければよいのですが、低い上に内容も悪い。大企業の利潤だけが高くて、その犠牲となって中小企業の利潤、労働者・勤労国民の所得は低く、格差景気となっています。バランスの悪い経済です。これでは個人消費によって国民経済が内発的に発展する力が出ません。大企業に応分の負担を求めて福祉を充実させることは、生活犠牲モデルから生活優先モデルへの転換で内需循環型の発展への道を開くものです。リストラと不安定雇用で目先の利潤を追及する「株主資本主義」を止め、当面の利潤は多少減っても豊かな内需による長期的発展を目指すように企業活動を誘導することが必要です。

 つまり消費税率を上げて法人税率を下げるのが「大所高所」の見方だ、というのは勘違いだということです。消費増税に反対するのは、直接的には生活防衛のためですが、結局は歪んだ経済を健全に立て直すことにつながります。「痛みに耐えて」個人を犠牲にするよりも、生活を豊かにするほうがまわり回って、企業や国のためにもなる。これが「大所高所」の見方です。「消費税をなくす会」は経済を健全に立て直す世直し運動だと言えます。生真面目な人たちに向かってはそう呼びかけたいものです。なおグローバル競争にどう対処するか、という問題も重要ですが、企業の海外移転と法人税との関係など、よく解説されてもいますし、長くなるのでここでは端折ります。

 「消費税をなくす全国の会」の方々には、「ノー消費税」などを通じて、私は細かい理屈を言ったりもしますが、実にていねいに対応してくださるので感心しております。杵渕さんや梅村さんなどから直接電話や手紙もいただいております。この会は、比較的新しい組織でありながら、国民にとって最も身近で切実な課題に挑んでいるその性格にふさわしく、老舗の民主団体にも負けない清新な気風にあふれていると感じています。ますますのご発展を期待しております。

        2008年2月2日

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