これは、高田太久吉氏の「現代資本主義をどう捉えるか」の要約ノートです


高田太久吉〔研究〕「現代資本主義をどう捉えるか 経済の金融化論の視点から

  (『経済』201911月号所収)

 

 T 現代資本主義の歴史的特徴 

 

     1 戦後資本主義の転換期としての1970年代

 

1970年代前半期 戦後資本主義の歴史的・構造的変化の表出

 ○「金・ドル交換停止」(718月)

国際通貨システムの一大転換、ブレトンウッズ体制の崩壊

   基軸通貨ドルを金交換の制約から解放→景気刺激のための財政・金融政策の余地↑

   米国の基軸通貨国としての責任放棄、各国通貨の切り下げ競争

 

○オイルショック

   国際通貨制度のさらなる不安定化、国際経済におけるマクロ不均衡の拡大

   輸出市場における競争激化

   60年代以降に活発化していた「ユーロダラー市場」の急膨張

    ←産油国の余剰ドル、多国籍企業と多国籍銀行の資金が

規制の緩いロンドン市場へ流入

 

⇒スタグフレーションへ  その背景

  *基軸通貨の管理責任を放棄した米国の財政・金融政策→ドル信認の低下

  *産油国による波状的な原油価格引き上げ

  *日独などの輸出主導型経済が促進した貿易不均衡

  *さらに基底的要因

5060年代の資本主義の高度成長による世界的な「資本の過剰蓄積」

 

 

     2 世界的な「資本の過剰蓄積」とスタグフレーション

 

○「資本の過剰蓄積」の定義

 価値増殖のための貨幣資本が、さらなる価値増殖の機会を見出せないほど過剰に蓄積されて、旧来の方法では、資本として自己増殖運動を続けることが困難な状態

 

○資本の過剰蓄積の一般的現象

 過剰生産された商品の販売競争、商品価格の急激な低下、生産者・流通業者の経営不振

 利潤率低下・再生産過程の撹乱(商業恐慌)

 産業資本と商業資本が信用に依存している発達した資本主義下では、

  資本間の信用連鎖が破断し金融危機を伴う過剰生産恐慌が発生

 

○スタグフレーション その根本的原因は資本の過剰蓄積

 不況(高失業)と物価上昇の併存

  ← 企業の合理化・減量経営 と 政府の拡張的財政・金融政策

   両者は、60年代末に顕在化した世界的な資本の過剰蓄積がもたらした経済危機と

        利潤率低下に迫られた、資本と政府の対応措置

 

 

     3 70年代以降資本主義はどのように変化したのか

 

170年代画期に生じた労使関係の基本的変化(労使妥協の失効と経営者の権力回復)

     → 生産性と賃金との連動関係の形成と切断 資本の過剰蓄積の永続化へ

 

○高度成長期

生産性と賃金との連動関係 ← 戦時経済から「平和」経済への移行

  民生向け新産業の発展

               戦後改革の所産:労働権の強化、労組の交渉力

 

○資本の過剰蓄積を背景とする経済危機・利潤率低下 

企業経営者 危機の負荷を労働者に転嫁 政府と連携して労働権と労組の交渉力を攻撃

 生産性と賃金との連動関係を切断

 → 資本と労働との矛盾激化

投資と雇用、経済成長と家計消費 : それぞれ関係が分断

   資本集中で進む独占の強化

⇒ 資本の過剰蓄積を永続化する資本・労働関係の形成

 

2)多国籍企業のグローバル化の進展

先導者:大手多国籍銀行

投資・雇用の抑制で顕著になった世界的な資本の過剰蓄積を背景に、

80年代以降、資本取引自由化・金融業務の規制緩和を進め、

途上国の金融市場を国際金融市場に組み入れ、彼らの利殖活動にふさわしい市場へ

 

 

     4 新自由主義イデオロギーと「企業原理主義」 

 

新自由主義の政府による市場介入 「市場原理」に反する行動

 ・景気政策としての金融緩和

 ・深刻な経済危機における企業・銀行救済 緊急融資・不良資産買い上げ

 必要なら国有化も

 ・景気刺激と企業支援のため、財政膨張・国債増発 → 財政危機深刻化

 ・外国為替市場への介入、貿易交渉(二国間・多国間)

 ・株価・国際価格維持のため、大規模な買い支え

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 要するに、現代資本主義の運行は、好むと好まざるにかかわらず、政府・金融当局の介入と企業支援、大規模で構造的な景気浮揚策によってかろうじて維持されているのであり、「市場原理主義」が意味するように、経済の運行を文字通り市場原理(価格競争)に委ねれば、遅かれ早かれ市場自体が深刻な機能不全に陥り、再生産過程の破滅的混乱によって、資本主義自体が立ちいかなくなるのは明らかである。現代資本主義には、大恐慌やリーマンショック級の経済危機が発生した場合、政府の力を借りずに自力で克服する自動調節機能は内蔵されていない。その意味で、現代資本主義の存続基盤は政府によって防御されており、こうした政府の役割に国民の多くが厳しい不信の目をむける政治的危機に対して、現代資本主義は非常に脆弱と言わなければならない。近年、欧米諸国に広がる財界保守派と結びついた排外的で右翼的な「ポピュリズム」の傾向は、このような現代資本主義の政治的脆弱性の表れとして捉えることが妥当である。

 このように考えてくると、新自由主義が決して単なる「市場原理主義」ではないことが明確になる。新自由主義の最大の特徴は、企業の営利活動の障害を取り除き、その権益を擁護・増進するために、政府の介入・規制と市場機能(競争原理)を、時と場所に応じて便宜的に使い分ける機会主義である。したがって、新自由主義の特徴付けとしては、イデオロギー的市場信仰の印象を与える「市場原理主義」よりも、企業の利益と権益を公共の利益や国民経済に優先する、「企業原理主義」がよりふさわしいと言えるであろう。

      112113ページ

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 U 経済の金融化、あるいは、架空資本市場依存型資本主義 

 

     1 経済の金融化とは如何なる現象か

 

○金融化現象

・金融市場と金融産業の膨張

・経済成長を上回る金融取引と金融資産の増大

  ・金融的利得と金融的富の増大及び集中

  ・IT化と連動した金融イノヴェーションの加速

 以上だけでなく、企業経営、家計の経済行動、財政・金融政策、経済学、経営学、社会学を始めとする社会科学の教理と教育、人々のイデオロギーや価値観の領域まで

 したがって、世論と政治にまで強く影響

 

*急速に膨張する金融市場は

  かつての預金・貸出市場ではなく、

証券の組成・募集・売買を中心とする証券(架空資本)市場

∴ 金融市場の膨張:架空資本の種類・市場価格・取引高の急速な増大

 →架空資本市場に流入する資金の最大部分:他人のお金を運用する機関投資家から

 → 株主の機関化

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 これらの機関投資家は、通常大手投資銀行や専門的な資産管理業者と連携し、運用資金の利回りを確保するために、保有株式(ポートフォリオ)の入れ替えを頻繁かつ大規模に行う。また、公的年金や企業年金を運用する機関投資家は、運用資金の相当部分を、ヘッジファンドを始めとする投機組織に預託している。現代ファイナンス論を応用した、大同小異のコンピュータプログラムで資金運用する機関投資家の市況判断はおおむね同調的である。このため、機関投資家が主導する株式市場では、株価はいったん均衡から外れると、きわめて大きな振幅で変動し、金融不安定性が極度に高まる。

       114ページ

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     2 株価が企業経営と競争を規定する「株主価値重視の経営」

 

機関投資家の投資判断・行動が株価を左右

 → 企業経営者は機関投資家の覚えめでたくするため、

   企業業績の正確な開示よりも、財務情報を加工して公表

   経営者は株価・債券利回りの変動重視の方向にバイアスをかけられる

 

資本の価値増殖は、本来の営業利潤ではなく、

買収とリストラを利用した株価上昇がもたらす差益の形をとる

  敵対的企業買収 LBO(レバレッジド・バイアウト) 買収後、リストラで株価↑

  LBOの手法:エクイティ・ファンド(専門的買収組織)が継承、M&Aの主導権握る

  M&Aをパッケージとして商品化し、売り込む → 大手投資銀行の重要なビジネス

 

過剰資本の整理

 1.政府主導の産業再編

 2.市場を介して:民間の経営判断と機関投資家の投資判断によるM&Aと事業整理

 

株主価値重視のコーポレートガバナンス(企業統治)

 経営者支配に対する投資家の権利(株主価値)の復権という解釈

しかし経営者は「株主価値重視」を大義名分に恣意的な経営権の行使の正当化

 M&A、企業組織と事業の再編、労働者の解雇、組合つぶし、労働者厚生の削減

 社会的責任の軽視、法外な経営者報酬

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 以上から引き出される結論は、現代資本主義のもとでは、金融産業だけではなく、企業経営、家計の経済活動、さらに政府の財政・金融政策が、金融市場とりわけさまざまな架空資本市場の動向に左右される度合いが極度に高まっているということである。言い換えれば、金融産業、企業財務、家計、財政、さらには国民のセーフティネット(年金・保険他)が、つまり、企業・家計・政府の所得と富が、総じて経済活動全体が架空資本市場に依存し、その動向によって規定される傾向が強まっているということである。これが「経済の金融化」の意味するところである。      116ページ

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     3 金融化によって深刻化する金融危機

 

架空資本の価値評価:将来の期待利潤や金利予想に依存し、不確定で予測困難

現代の架空資本市場の不安定性は、

 産業資本主義の下で、好況期に過剰取引と投機取引の梃子となり、

商業恐慌の要因となった商業信用の不安定性とは比較にならないほど重大

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 いずれにしても、現代資本主義が依存している架空資本市場は、企業経営者はもとより、政府・金融当局の理性的な政策によっても制御できない不透明かつ重大な不安定性を内包しており、それがいついかなる金融危機として発現するかは予測困難である。そして架空資本市場に、いったん深刻な混乱や機能不全が生じて価格が暴落すれば、金融機関、投資家、企業、家計を含め、国民経済全体が甚大な影響を免れない。その際、架空資本暴落の直接的な影響は、企業収益や家計所得の減少だけではなく、社会全体の「富」の甚大な喪失として発現する。             116ページ

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 現代資本主義のもとでは、社会の富は「膨大な架空資本の集合」として現れ、個々の架空資本は、その「要素形態」として現れる。     117ページ

 

○架空資本の暴落の影響

企業・家計・財政の運営を破綻させ、国民経済全体が危機へ

企業と金融機関を結び付けている信用連鎖が破断し、総資本の再生産過程が崩壊

政府の財政運営(資金調達)困難 → 

 家計:保有資産の価値喪失の他、年金制度や保険会社の破綻によって将来所得を喪失

 

⇒現代の政府と中央銀行

  架空資本市場の全面的崩壊は絶対防がねばならない

  金融危機の切迫に対して、「超法規的措置」を含めて、架空資本の価格維持に奔走

 中央銀行:架空資本(株式・社債・不動産を組み込んだ投資信託)の大量購入を

持続的に実施

 現代の中央銀行

  「最後の貸し手」(銀行の一時的支払準備枯渇を救済) から

「最後の買い手」(民間投資家が手を出せない架空資本を買う) へ

 

 

 V 経済の金融化で深刻化する資本主義の矛盾 

 

     1 貨幣資本の自己増殖(GG´)としての資本の運動

 

○資本の本質的な架空性

現代における資本蓄積の実体は、架空資本の蓄積に変質している

 大企業の多くは、利潤と内部留保の多くを、

他企業の買収を含む証券投資に振り向けて持株会社化し、

さまざまな金融子会社を傘下に抱え、

利潤の多くを金融的利得(利子、配当、手数料、キャピタルゲイン)の形で獲得

 

しかし資本の架空化は元来ある

 *産業資本も生産過程を含んでいるが、商品生産自体は目的ではない

 「資本の運動とは、本質的に生身の人間の社会生活から遊離した、

貨幣資本の自己増殖運動に他ならない」    (118ページ)

 

 *独占資本主義の時代

  株式会社の普及・公社債市場の拡大

  →貨幣資本を証券化し「商品」として売買する取引所が、資本の価値増殖の新空間に

 「貨幣の価値増殖が、架空資本の価値増殖に変化したことで、

資本の価値増殖の架空性が一層あらわになった」(118ページ)

 

 *現代資本主義下では、

  現実資本として過剰な資本が、架空資本市場に流入して過剰な貨幣資本を形成し、

  架空資本市場に慢性的な超過需要(投資適格証券の不足)を生み出している

  金融派生商品:架空資本を材料に二次的組成

  架空的証券:信用デリバティヴを利用した合成CDOなど

  仮想通貨

 

**架空資本の拡大

資本の「架空化」の歴史的プロセスの延長線上で、生まれるべくして生まれた倒錯的現象

 

 

     2 「資本の商品化」の完成形としての架空資本

 

産業資本:あらゆる資源と労働力を商品化し、価値増殖過程に取り込む

 労働生産物の商品化 →

 生産物の有用性(使用価値)は交換価値の単なる担い手、付属的属性

交換価値(商品としての販売可能性)が存在理由、基底的属性

 

私的労働の所産である商品が市場で無差別に交換されるためには、

 量的に比較可能な共通の「社会的」属性が必要

 → 社会的分業の一環としての人間労働の所産であるという属性

価値法則:投下労働が、総体としての社会的労働のどれほどの加除部分に相当するか

      を基準にして商品が交換される社会関係の作用を表わす

商品価値の実体:商品を生産するために支出された労働   価値の大きさ:労働量

価値法則は、商品生産社会の社会的分業関係を、

個別商品に投じられた労働の社会的評価を基準にして、

言い換えれば、私的労働の社会的必要労働への還元を通じて、調整する経済法則

 生産手段と労働力の生産諸部門への配分を市場機能に基づいて調整する役割を担う

ただし資本主義的生産関係の下では、

 価値法則の役割は、平均利潤をめぐる資本間競争によって規定される

 商品の交換価値は「生産価格」形態へ

独占段階へ

 独占資本による市場支配 → 価値法則の社会的調整機能が媒介的・不透明に

 

資本主義の歴史的発展

 労働生産物以外の多様・膨大な商品市場の発展

  → 代表:「商品化された土地」、「商品化された貨幣請求権」としての架空資本市場

 

架空資本:一定額の資本に対する法的所有権。将来の所得に対する請求権を化体した証券

 信用制度の基礎上で成立した、貨幣資本の発展形態

 貨幣の価値増殖が資本の運動として一般化すれば、貨幣は本来の貨幣としてではなく

  それ自身が価値増殖能力を具有する物神的存在として商品化される

 

利子生み資本では資本の商品化は未完成

 資本は未だ貨幣形態で、商品としての価格を持たず、価格は利子という不分明な姿

架空資本(貨幣資本を化体した証券)に発展して初めて商品として完成

 

○労働生産物ではない架空資本の「価値」は経済学的説明を必要とする歴史的事実だ

∵膨大な架空資本が商品として価格を持って市場に上場され、無差別に売買されている

 取引所を中心とする架空資本市場が現代資本主義の運動機構として極度に重要な役割

  → 架空資本市場の運動が、資本の利潤原理に適応し、

資本の運動と整合的に調整されている

架空資本の交換価値=経済的同値性には、売買当事者の思惑を超えた社会的根拠がある

 「架空資本の交換価値の拠り所は、それらがあまねく備えている、貨幣資本としての価値増殖能力である」(121ページ)

 

利子率:市場で誰もが確認できる明示的数値

    貨幣資本の価値増殖能力の一般的水準を表わす

 ∴様々な架空資本の交換価値を利子率を基準に評価するのは合理的

 → 資本還元

 資本還元を介する架空資本の交換価値は、極度に媒介的で不透明

 しかし架空資本の交換価値を規定する価値法則が存在しないというのは早計

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 架空資本市場の極度の不安定性と不透明性から結論付けられるのは、現代資本主義の異常な不安定性と不透明性の重要な原因が、現代資本主義の金融化、言い換えれば、現代資本主義の運行が、ますます強く架空資本に依存し、経済全体の運行が架空資本市場の運動にシンクロする度合いが高まっている事実に潜んでいるということである。

    122ページ

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     3 架空資本市場依存型資本主義(金融化した資本主義)の矛盾

 

資本主義社会:貨幣的価値の自己増殖を目的とする資本の運動と競争が経済全体を規定

  → 歴史的終焉につながる固有の矛盾を内包

*資本主義の矛盾 人類社会と文明の存続・発展の根源である人間労働が、

貨幣価値増殖の手段として資本に従属し、階級的搾取の対象にされる不合理

  → 目的と手段の完全な転倒性、社会的富の現実性と架空性との倒置

     人類社会の存続基盤(富と文明)が、

架空の「富」(貨幣)の自己増殖運動によって規定されるという意味

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 資本主義の金融化(架空資本依存型資本主義に向かう傾向)によって、この転倒性と矛盾はかつてなく顕著に発現する。ここでは、労働生産物の商品化に代わって、貨幣資本の商品化が優勢になる。経済活動の重点が産業から金融にシフトし、労働と雇用が実体経済から遊離して貨幣の自己増殖運動に包摂され、架空的「富」の組成・販売活動に変質する。この結果、架空資本の形態での金融的「富」の法外な集中と格差が広がり、金融市場のカジノ化(貨幣資本の投機的資本化)が進行する。こうして、本質的に不透明・不安定な架空資本に依存した経済社会の運行は、頻発する金融恐慌、バブル崩壊、国際通貨危機によってかく乱される。          122ページ

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○金融化の病理的現象

企業 「モノ作り」から機関投資家化へ、営業利益より資産収益

 株価最優先:自社株買い・M&Aに利益の大半を投入→雇用創出・社会貢献から離反

 頻発する金融危機とバブル崩壊 → 

財政・金融政策は国民的課題を放棄して、通貨価値の維持に必要な規律を喪失し、

   株価暴落を食い止め、暴落した場合、評価損を引き受ける「最後の買い手」に変質

 企業と富裕層:所得と富をタックスヘイブンに隠蔽

 多くの政府:タックスヘイブンの開設をもくろみ、空想的な「金融立国論」

  架空資本市場に投資家を呼び込むため、

金融機関は社会的に無意味な過剰な金融イノヴェーションをめぐる競争 AI技術

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 近年の金融化にともなってますます顕著になっているこれらの病理的な諸現象は、資本の活動と賃労働が、社会的有用性・必要性から乖離し、貨幣=交換価値、要するに架空の「富」の自己増殖運動に従属・埋没し、人類史的基準からは「没」価値化していることの証明である。         123ページ

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 W 現代資本主義の矛盾と文明の危機 

 

     1 資本主義の発展と資本の「文明化作用」

 

○「文明」の定義

人類が知的、物理的、社会的活動を通じて歴史的に生み出した、あらゆる有益・有用な所産の集積であり、諸個人が自己に備わった能力と可能性を多面的に実現し、豊かで快適な社会生活を営み、芸術・スポーツを始めとする多面的な文化活動をその上に開花させるための、第一義的な基盤、条件である。   (123ページ)

 

○資本の「文明化作用」

 生産力発展・産業創出を通じて、自然の有用性と人間の潜在的能力を開発し、上記のように人間社会を豊かにしてきた

 19世紀中期までの産業資本主義段階では比較的顕著に見られたが、独占段階になると、変質・衰弱し始める

 

○現代資本主義における資本蓄積と文明の矛盾を表わす顕著な病理現象

財政・金融政策依存の高度経済成長(国家独占資本主義)と独占利潤

 → 世界的な資本の過剰蓄積

失業・不安定雇用、格差拡大等々の病理現象を列記(124125ページ)

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 これらは、社会を豊かにする文明の発展に資するべき社会的資源と労働力が、一握りの大企業と富裕層の貨幣的利益のために、文明破壊的に浪費・濫用されている状況を示している。言い換えれば、資本の活動と所産が、人類社会にとっての全般的な有用性、社会を豊かにし、人間の諸属性の豊かで全面的な発展を可能にする文明化作用から離反し、人類史的意味を持たない架空的「富」の蓄積に埋没している状況を表している。

      125ページ

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     2 文明の危機が表す資本主義の歴史的岐路

 

健全な文明の発展:あらゆる社会体制と支配的イデオロギーの正統性の根拠(存続条件)

資本主義による自然と文明の破壊 人間の発達の抑圧 

 → 正統性を失い公衆から受け入れられない

資本主義の病理現象として現れる現代文明の危機は、現代資本主義の体制的危機の表れ

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 「経済の金融化」=架空資本市場(資本市場)依存型資本主義に向かう傾向は、資本の利殖活動を国民の福利や社会の存続条件から著しく乖離させ、資本蓄積の回路を、有用性を基調とする「実業」から架空資本市場にシフトさせ、富の集中と格差拡大を極度に進め、投資家(大企業経営者を含む富裕層、投資銀行・機関投資家・資産管理業者・投機組織等)と金融テクノクラートの支配を強化し、露骨で野蛮な金融支配の土壌となり、資本が本来的に具有する「架空性」、「非有用性」を極度に強める。これらの倒錯的な病理現象から発生する深刻な社会問題と政治不信は、政治と経済の体制的変革を求める市民・労働者の運動を世界的に呼び起こす。         125126ページ

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 X 「資本主義の終焉」論と福祉国家論をめぐって 

 

     1 独自の歴史的過程としての「資本主義の終焉」

 

資本主義はすでに終焉期に入っている

資本主義(利潤原理=貨幣の自己増殖によって規定される経済システム)の存続と

 文明のさらなる発展(持続可能な地球環境の維持と両立する科学技術の進歩、経済的・文化的に豊かで公正な社会の実現、社会問題と国際紛争の平和的で文明的な解決)とが

両立しない歴史段階に入っている

→ 新しい社会体制への移行:資本主義経済システムの自動崩壊ではなく、

利潤原理とは異なった新しい原理に沿って解決する新しい運動・組織・制度・思想・

技術および「担い手」が生成発展する独自の歴史的過程

 

展望を開くための理論的準備作業

1)未来社会の基本的な政治的・経済的構成原理についての理論的研究

2)科学技術とりわけICTおよびAIの急速な発展・普及が企業組織と労資関係をふくむ人間社会全般に及ぼす影響の研究

3)資本主義から新しい社会体制への転換過程において「福祉国家」が果たすべき歴史的役割を明らかにする作業

 → (1)と(2)は措く  以下では(3)を考察

 

 

     2 資本主義の終焉と福祉国家の歴史的役割

 

○福祉国家の本質:資本の論理だけでは解決できない社会的・経済的問題を

資本主義の枠内で改善し、労働者・貧困者の「反乱」を予防するための

「限定的で対症療法的な」方途として発展

資本の競争的営利活動を、資本主義の土台を維持したままで、

 国家の理性的な政策・制度によって制御する体制

 → 調整的で根本的な矛盾を内包 長期安定的な体制にはなり得ない

 

○福祉国家に期待される歴史的役割

現代資本主義の病理現象(←資本と文明の衝突・矛盾)を

資本の運動に対する国家の理性的制御(福祉国家が提供する諸制度と権利の活用)

 によって改善し、

 文明の発展と両立する福祉社会を目指す政治的・社会的運動を徹底的に推し進める作業

 → 人々は資本主義の矛盾と歴史的限界を経験的・理論的により深く、具体的に理解し

  資本主義が生み出しながら自らの枠内では解決できない諸問題を解決する新しい方途、組織、制度、技術、イデオロギー(=資本主義を乗り越える「新しい文明のあり方」)とその成立要件を模索

 人々は新社会を担う未来志向の人間として成長する可能性を開く

 

 

あとがき

 

議論されてきた資本主義の危機の内容(現象)

*ゼロ金利:成長至上主義の限界  *高度化する文明と地球環境・人間社会との衝突

*社会的統合性と両立し得ない格差拡大と富の集中 

*世界経済危機に誘発された国際秩序の動揺

 

 → 現代資本主義の行き詰まりを考察する二つの視点

1.資本の本質的な「架空性」の深まり

2.資本の論理(利潤原理)と文明(人類社会の存続・発展)との矛盾

→ 二視点を媒介する「経済の金融化」(資本主義が架空資本市場依存に向かう傾向)概念

それを促進した「貨幣資本の過剰蓄積」

現代資本主義の行き詰まりを解明する重要なカギ

「経済の金融化」と「貨幣資本の過剰蓄積」

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 資本がその本性として備える「架空性」は、経済の金融化によっていっそう鮮明になり、資本と富の「架空資本化」が文明社会の存続と両立しないまで進行する。このような捉え方によって、「貨幣が貨幣を追い求める」体制としての資本主義の本質的な非「文明」性と転倒性が明らかになり、「成長至上主義の限界」の歴史的合意、したがって、現代資本主義の「危機」と「限界」の歴史的意味が、より立ち入って経済学的に解明できると考えている。           129ページ

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