これは、山田博文氏の2論文のノートとメモです


「官製バブルが拡大する格差とリスク 出口なき異次元金融緩和の結果と弊害」、(『経済』20192月号所収…以下「山田A」) 

 

日銀 財政ファイナンス 日銀トレード

株価連動内閣  日銀とGPIFによる株価対策

 日銀 国債発行残高の4割 470兆円   GPIF 内外株式 87兆円

  → リスク

 

◎日銀の国債買入と活発化するビジネス

 

財政ファイナンス 

 民間金融機関保有の国債を日銀が大規模に買い入れ

 → 日銀:国債が積み上がる  銀行:大量の日銀マネー 再び国債投資へ

 政府は無制限に国債発行できる

問題点

1.国債発行額を超える日銀の買い入れ

  民間金融市場の資金動向から乖離した国債増発が可能に

  日銀信用に依存した事実上の財政ファイナンス

2.国債発行残高 GDP2倍の約1000兆円   

  毎年の国債元利支払い 一般会計予算の1/4ほど

  社会保障など圧迫 新規財源と増税圧力

3.国債ビジネスが活発化

  ごく少数の内外の巨大金融機関に独占的な国債関係収益

 

日銀トレードと付利で稼ぐ大手金融機関

 日銀 高値で国債買い入れ

 金融機関は財務省から安く買っているので売却益を得る

 200810月来、当座預金の一部に0.1%の付利   マイナス金利部分より多い

問題点

1.銀行:売却益 日銀トレードで安定的な国債売却益

 日銀:損失 累計 17年度で10兆円以上

2.実体経済の冷え込みで、日銀から供給されたマネーは日銀に戻り

   0.1%:2082億円  マイナス0.1%:193憶円  差引1889億円の収益

 普通預金残高450兆円 利子0.001% 45億円  0.1%なら4500億円 差4455億円

   → 家計から銀行へ利子所得移転

 

 

◎日銀のETF買入と株価対策

 

実体経済が停滞しても株価が2倍になった背景

1.異次元金融緩和政策そのものがグローバル投資マネーを呼び込んだ

 しかし15年からは海外投資家は売り越しに転じる

2.日銀とGPIF 公的資金を株式市場に投入 人為的な株式需要

 

株価の下落局面に日銀がETF買入

 

◎世界最大のGPIFの株式運用 

2006年設立  14年 基本ポートフォリオを抜本的変更 株式運用↑へシフト

1698748億円 20189

国内株式435646億円 外国株式436604億円

年金積立金は国民の財産なのに高リスク運用で説明責任もない

 

◎格差拡大と異次元リスク まとめ

 

官製バブルで株価2倍 →大企業・金融機関・内外の投資家・富裕層に含み益・売却益

全体の金融資産 1.4倍増  ⇔ 貯蓄ゼロ世帯 26%から31%へ

貧困・格差大国へ

異次元リスクの時限爆弾

株式や国債 予測不能な価格変動リスク、信用リスク

売買の主役 逃げ足の速い海外投資家、超高速のコンピュータ売買 価格乱高下市場へ

 

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 日銀は異次元金融緩和を担い国債を大規模に買い入れてきたので、すでに戦後の国債発行残高の4割を超える470兆円(1811月)ほどの国債を保有している。国債価格の下落(=金利上昇)は、日銀に巨額の損失を発生させ、日銀信用を毀損し、急激な円安・物価高をもたらし、国民生活を破壊する。とくにカロリーベースで6割を輸入に依存する食料の価格上昇は深刻である。日銀の国庫納付金の減額はそれだけ国民の財政負担を増大させる。また国債金利の上昇は国債利払い費を増大させ、財政を圧迫し、国民の財政負担を増大させる。財務省試算では、1%の金利上昇は、2020年度の国債利払い負担を37000億円ほど増大させる。

 株価が下落すればGPIFが金融資産として保有する株式の資産価値は減価し、GPIFは損失を抱え込む。年金積立金を株式相場に任せると、国民の老後の生活費が株式市場の泡となってなくなることを意味する。           70ページ

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「財政ファイナンス・日銀トレードと国際ビジネス――国家と中央銀行を利用した金融独占資本の資本蓄積――(政治経済研究所編『政経研究』No.111  2018.12 、所収、…以下「山田B」)

 

1 問題提起

国債:政府が元利払いを保証する証券。信用格付けトップクラスの金融商品

一般会計予算の34割が国債発行に依存 国債の発行なしに予算が組めない

毎年、3040兆円の新規国債と100兆円を超える借換債の発行が維持できたのは、日銀信用に依存して国債が発行されてきたから

保有国債をいつでも日銀が買い取ってくれるメカニズム=日銀トレード

 → 民間金融機関には国債売却益、日銀には償却負担

 日銀の国債保有額:国債発行残高の4割 

  →国債価格の下落は日銀のバランスシートを破壊

国家と中央銀行を利用した内外の金融独占資本の資本蓄積が増進

 

2 財政ファイナンスと国債ビジネス

 

     1.国庫の赤字は金融独占資本の収益源泉

日本の政府債務総額  20186月:11285280億円  GDP225

 普通国債発行残高:88572445億円

世界の大手金融機関 国債の全局面を網羅する資本蓄積を展開⇔国民には重税

国債ビジネスの収益源泉:国債引受手数料・売買差益・利子収入・賃貸手数料・担保物件・リスクフリー資産(BIS規制対策)

 

     2.日銀の国債買入に依存した国債増発

2016年 国債買入額:144兆円、国債発行額:143.5兆円(新発・借換合計)

 買入比率:100.3

新しい財政ファイナンスのやり方 間接的な日銀引受

 日銀、民間金融機関保有の国債を買い入れ、代金を供給

 民間金融機関、政府発行の国債を購入

 政府はいくらでも国債発行できる

日銀信用に依存して財政資金が調達される財政ファイナンス

 

     3.隠蔽される財政破綻と国債バブル

日銀の買い支えで、国債価格暴騰(国債金利は暴落)

 政府:国債利払費の軽減

 → 投資家にとっては国債の旨みが減少、国債ビジネスの限界

 民間金融機関、国債保有額を激減

 

 

     4.日銀の独立性の剥奪と膨張する資産

中央銀行が政府の発行する国債の消化機関に

国債の大規模買入を通じて、政府債務である累積国債は日銀のバランスシートに移転

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 今後、何らかの事情で国債価格が下落した場合、日本銀行は資産の劣化と巨額損失に逢着し、日銀信用は毀損する。それは、対外的には急激な円安を誘発し、輸入物価を押し上げ、それと連動して国内物価の高騰・インフレを誘発し、国民生活を直撃することになろう。

 日銀の独立性を剥奪し、アベノミクスに組み込んできた政府の場合、増発され累積する国債は財政破綻を誘発し、国債価格の下落は長期金利の上昇となって国債の利払い負担を膨張させ、一般会計歳出中の国債費を吊り上げ、社会保障関連費などの国民生活関連予算を切り詰め、財政緊縮による国民生活破壊をもたらすであろう。   125ページ

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3 日銀トレードと国債ビジネス

 

 1.活発化する日銀トレードと国債投機

一般の国債利回りはゼロ近傍の水準にあるのに、

日銀トレードによって民間金融機関は破格の高利回りを実現    

異常な金融緩和政策の限界

 異常な低金利の長期固定化 → 金利収入低下、保有国債を日銀に売却

  国債市場は品不足、取引低迷、日銀トレードの利ザヤ縮小

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 このような日銀トレードの行き着く先は、歴史的にも未体験の日本国債市場の異常事態であり、市場から国債が「消滅」し、国債の取引が成立しない事態をもたらしている。

 また日銀サイドでは、日銀のバランスシートに価格変動リスクのある資産として累計する450兆円もの大量国債について、そのリスクをできるだけ表面化させることなくどのように処理できるか、といった未曾有の困難を抱え込んだことになる。   127ページ

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 2.国債の高値買入と隠れた補助金

日銀の損失(償却負担):2017年、101540億円

 毎年13360億円償却 → 日銀の国庫納付金が減額

「額面以上の高値で国債を日銀に売却できた民間金融機関は、国債の売買取引という合法的なやり方で、日銀から国債売却益という『隠れた補助金』を供給してもらってきたことになる」(128ページ)

恩恵を受けるのは国債市場特別参加者:内外の大手金融機関20数社

 

 3.膨張する日銀当座預金と利子収入

リーマンショック後、2001810月から日銀当座預金に0.1%の付利

20186

日銀当座預金残高全体:3722160億円

 基礎残高:2082730億円 → 金利0.1%  2082億円受け取り

 マクロ加算残高:1387910億円 → 金利0

 政策金利残高:251520億円 → 金利マイナス0.1%  251億円支払い

   差引1831億円利子収入

 民間銀行にとって日銀当座預金はリスクフリーの資金運用手段

  預金者に支払う100倍も高い利子収入

 

4 結語

 

財政ファイナンスと日銀トレードによって

 内外の金融独占資本:旺盛な国債ビジネスを展開 国債関係収益を確保

 日本財政と日銀:異次元のリスク抱える

「政府債務を引き受け、国債を大量に保有してしまった日銀にとって、国債価格の動向・金利の動向がバランスシートに破壊的な影響を受けてしまう素地ができあがってしまった」(130ページ)

「現在のように日銀が発行残高の4割台の国債を保有する事態は歴史的に未経験であり、今後、日本の中央銀行と『円』はどうなるのか、予断を許さない時代が到来している」(同前)

 

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**刑部メモ

同じ貸借関係と言っても、所得流通と資本流通とでは内容が違う

 労働者・自営業者など 生活必要ぎりぎりの所得を削って返済

 資本主義企業 投資して利潤の一部から返済

 

 

経済危機の可能性 財政危機・金融混乱 → 国債と円の暴落・金利高騰

 生活と生産の危機

議論・甲 それを防ぐために消費増税

議論・乙 そんな危機は来ない

甲:タカ派の新自由主義構造改革 人民の生活犠牲は前提

乙:ハト派だが、金融独占資本の寄生的資本蓄積には無批判

解決策:大資本・富裕層への課税による財政再建

  → 人民の生活犠牲を防ぎ、金融独占資本の寄生的資本蓄積をなくす

 

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