これは、吉田敬一氏の「亡国の日本型グローバリゼーションと地域経済・中小企業危機打開の基本的観点」の要約ノートです |
亡国の日本型グローバリゼーションと地域経済・中小企業危機打開の基本的観点
吉田敬一 『前衛』2019年5月号所収
アベノミクスの自画自賛と実態
大企業の利益↑ 配当↑
賃金水準:低迷
給与:微増傾向 実質可処分所得・実質消費支出:横ばい←税・社会保険料↑
労働分配率:持続的低下、大企業48.3% 中小企業70.1%
2012年12月から 戦後最長の景気回復期間? 年間実質GDP成長率 1.2%に低迷
統計操作と恣意的判断による「好景気」
1.日本型グローバリゼーションと地域経済・中小企業の存立問題
(1)地域経済・中小企業を破壊する大企業のグローバル化戦略
20世紀の日本経済
トリクルダウン効果が機能
大企業の輸出強化 → 生産・流通を支える中小企業の仕事量増大 → 雇用の安定
1985年G5・プラザ合意後
円高・輸出環境悪化 → 海外移転促進 → 経済構造が国内中心から国際的枠組みへ
<個別資本の循環>
資金調達⇒労働力・原材料調達⇒生産・加工⇒卸売機能⇒小売機能
⇒売上代金の還流⇒再投資
→ 自社内で完結は無理 一定の生産分業・ネットワーク形成へ
ネットワークを統括するリーディング・カンパニーの戦略による三類型
(1)ローカル循環:地場産業に代表される地域内生産分業構造=地域経済循環
(2)ナショナル循環:かつての自動車メーカーにみられた国民経済レベルでの
企業内地域間分業構造=国民経済循環
(3)グローバル循環:現在の自動車メーカーに代表される世界的規模での
企業内国際分業構造=世界経済循環
20世紀:基本的にナショナル循環
21世紀、特にアベノミクス下:グローバル循環へ急激に移行
円安で輸出金額:着実に増加傾向 輸出数量:低迷状態
数量低迷の理由
・海外生産の増加 → 海外拠点の採算を考えると、円安でも輸出価格を下げられない
輸出関連大企業:円換算で増収増益
下請け関連地域経済・中小企業:増産の波及効果がない トリクルダウンが生じない構造
21世紀の内需低迷下の日本企業の売上
外需依存度が急増 特にアメリカと中国中心のアジア → 米中経済戦争の影響が心配
経済循環のグローバル化と内需低迷 → 中小企業・自営業の破壊
倒産よりも休廃業の増加 早めに事業に見切りをつける
対策 内需拡大の基礎となる国民所得の向上につながる雇用・労働条件の改善
地域経済・中小企業を土台としたローカル循環づくり
(2)自動車工業にみるグローバル循環構造の到達点
アベノミクスが目指す21世紀の日本経済の構造
×ナショナル循環・ローカル循環の強化
◎グローバル循環:大企業のグローバル戦略=アジア地域重点の企業内国際分業構造
自動車工業 2000年:海外生産>輸出 2007年:海外生産>国内生産
2018年:国内生産923.7万台 海外生産1976.7万台 輸出457.4万台
海外生産比率68%
アベノミクスの幻想 ×TPP11などの広域自由貿易圏が輸出拡大
○大企業の企業内国際分業の高度化 → 逆輸入によって中小企業へ打撃
円安でも輸出数量は増えず → その理由と結果は上記のとおり
円安による輸出大企業の特別利益:生産・輸出拡大でなく内部留保と配当に回る
→ アベノミクス景気の実態 一部の大企業・資産家と国民多数派との格差
多国籍大企業が国内生産を犠牲にしても海外生産拡大に邁進する理由
本社が海外子会社から多額の知財収入
「特許」「生産性向上・現場改善ノウハウなど」の使用料・技術指導料
海外現地法人からの配当などの利益配分の本国送金
→ 円高に振れても安定した利益確保、円安ならその上に為替差益も
(3)グローバル循環型経済の下での国内生産と中小企業の役割
トヨタが国内生産300万台体制にこだわる理由
1.グローバル需給調節機能を維持するための輸出能力の確保
グローバルリンク輸出:グローバルな需給ギャップの最終的な調節機能の拠点が日本
2.国内需要への対応
3.母工場機能
1―様々な問題が生じるネック工程への対応 高度な技術を持つ中小企業だけに限定
2−海外生産では採算の取れない少量多品種生産高級車の生産機能
3−先端技術を駆使した新しい発想のモデルの開発拠点→海外から技術指導料を稼ぐ
グローバル企業は世界最適地生産の基本戦略の中で国内生産や中小企業を位置づけるだけ
かつてのように大企業の生産拡大が地域経済や中小企業の発展につながる関係ではない
2.地域資源を活かした持続可能なローカル循環型地域経済再生の展望
(1)地域経済再生の基本的観点
[ローカル循環型経済づくりの留意点]
持続可能な地域経済の土台:地域特性を活かしたローカル循環型の自律的経済基盤の構築
ローカル循環型経済の2類型
1.地産地消型:生産と市場が地域限定
2.地産外消型:生産はローカル、流通・消費はナショナル・インターナショナル
発想の逆転 「地消地産」 地域で消費しているものは出来るだけ地域内で生産
域外資金流出している食料品・エネルギーに注目
「地産地商」が重要:流通も地域内業者が担う
×安倍政権:地方活性化に海外資本を誘致
[岩手県住田町にみるローカル循環型地域経済]
☆東日本大震災の復旧過程で、地元木材を使った木造一戸建ての仮設住宅の提供で
脚光を浴びた住田町はどう林業を振興し、地域経済をつくり上げたか
平成の自治体合併を拒否し、地域資源を活かした内発的発展の道筋を選ぶ
伏線 1978年「第一次住田町林業振興計画」
目標:林産物の生産・流通・加工を通ずる地域経済の発展的活動を実現
1993年「第二次住田町林業振興計画」
基本方針:国産材時代実現に向けた国産材産地のシステム形成、森林の多目的利用
川上(林業)から川下(木造住宅)までの生産連関のコア工程を地域内で
整備する事業を着実に推進
地域内の森林資源の活用と中間加工工程の地域内配置 → 端材・木くずが生じる
→ 木質バイオマスの発想 → エネルギーの地産地消
農産物の品質規格作成でブランド化、 地産地消シンボルとして「すみたっ子給食」
⇒多くの関連業種・工程を地域内に取り込んで雇用と所得を地域内で
循環・再生産する仕組みづくり 地域内経済循環力は高度な水準に
[ローカル循環の土台としての文化型産業]
産業構造の二類型 文化型産業と文明型産業のイメージ
|
文化型産業 |
文明型産業 |
産業部門のイメージ |
衣食住などの生活必需品産業 |
自動車・家電などの近代的機械工業 |
製品の機能特性 |
人間の生命と生活の維持と質的充実 |
人間の手足・五感の機能向上 |
主要な素材 |
天然資源の活用 |
合成物質の開発・活用 |
生産力の特徴 |
技能・熟練の高度化 |
技術(機械体系)の進歩 |
競争力の源泉 |
地域生活文化と感性の独創性 |
科学技術・知性の高度化 |
中心的企業類型 |
地域密着型中小企業 |
大企業・ベンチャー企業 |
社会生活への効用 |
自然環境・コミュニティの持続性 |
生活空間の快適性・利便性の向上 |
資本の循環形態 |
ローカル循環 |
グローバル循環 |
まちづくりの手法 |
記憶を重ねる街づくり |
記憶を消し去る街づくり |
産業の存在意義 |
幸せな社会の経済基盤(GNH向上) |
豊かな社会の経済基盤(GNP向上) |
文化型産業の特長と意義
・地域特性に基礎をおいて地域コミュニティとともに発展する
・人間や地域社会の個性的な文化度を表現する
・地域内の経済連関性が高まり、雇用と所得が安定する
・グローバリゼーション下、先進国で育成すべき個性的な生活文化を
継承・発展させる地域経済集積 持続可能な形で存在意義を持つ地域の形成
・その経済的支え手:ホンモノ指向型の地域密着型中小零細企業
⇒21世紀日本経済の持続可能な復活・再生 個性的なローカル循環型地域経済と
それを支える地域密着型中小企業の重要な役割が浮かび上がる
(2)イタリアにみる持続可能な国民経済を支える地域経済のあり方
日本が対先進国で一貫して輸入超過:中部ヨーロッパ 文化型産業を大切に育成
日本がイタリアから輸入する製品
1.ファッション・バッグ・革靴など繊維・皮革
2.ワイン・オリーブオイルなど食品・食材など地場産品
⇒地域資源を活かしたホンモノ指向で文化度が高い地場産業製品
地域内経済循環の度合いが高い 多様な年代層の安定した雇用
・フェラーリ、アルファロメオ等 感性的側面で独自の文化性
メード・イン・イタリーでないと価値がない 空洞化しない製造業の典型
中部ヨーロッパ(独仏伊)は文化型産業と文明型産業の二本足の産業振興策
→ 小零細企業の比重が低下しない
むすびにかえて―地域経済を活かしたローカル循環型地域経済振興を目指して―
地方自治の本旨(住民自治に基づく団体自治)の観点から
持続可能な住民本位の地域再生を支えるローカル循環型地域経済再生の主要課題・観点
1.地域内で仕事お金が循環する仕組みを再構築し、地域内経済循環力を強める
という観点に立つ
→ 食・住・エネルギー・福祉の四領域での個性的な地域産業構造の形成
2.地域振興は地域「深耕」である
地域の可能性を掘り起こす 地域の長所・弱点・可能性を徹底的に調査研究
3.キーマンづくり 自主的な組織づくり
4.地域産業振興ビジョンづくり
5.地域内外での販売ないしマーケティング・商取引機能の確立
6.資金が地域密着型中小企業に回る仕組みづくり
課題クリアの手がかり:中小企業憲章(2010年閣議決定)