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『民商・全商連の60年』を読んで
2012.1.8
『民商・全商連の60年』を読ませていただきました。そこにはまず、副題である「中小業者の営業と生活、権利を守って」を地で行く尊い闘いの記録があります。さらにそれはこれからの私たちの運動に役立つ教訓と方針の宝庫でもあります。民商の会員と組織は「運動しつつ学び、学びつつ運動する」(本編362ページ)ことを目指していますが、民商・全商連の歴史全体はまさにそういった姿勢を体現しています。経済状況や社会のあり方の変化、政府・財界の政策に応じて、民商・全商連は機敏な運動を展開するとともに、数多くの先駆的な提言・見解を創造し発表してきました。その組織的前進に対しては支配層から厳しい攻撃が加えられましたが、そこでの反撃においても組織活動への点検を怠らず、運動の原則を明確にし発展させてきました。
今日、中小業者をめぐる状況は厳しく、暗い気持ちになりがちです。会員にとってみれば、商売も活動もキレイ事など並べておれず、とにかく目の前のできることから片付けていくのが精一杯という苦しい状況でしょうか。でもこれは十年で自営業者が118万人も減る(2000年の565万人から2010年の447万人へ。本編360ページ)という事態の中で起こっていることです。日本経済の変化や政策の誤りが一人ひとりの業者に重くのしかかっているのです。こうした中でも民商が何とか持ちこたえて、会員の権利を守り要求を実現してこられたのは、運動を進めつつ正確な方針を打ち立ててきたからでしょう。歴史には法則があり、運動には原則があります。それを理解して血肉にするのは難しいけれども、『民商・全商連の60年』を読むことはそこに近づく確実な一歩となるに違いありません。
本書では、時々の情勢認識を基礎にして(資料編155ページには、情勢を学ぶ理由、学び方・捉え方などを解明した「『情勢』の講義にあたって」が載っています)、税・融資・営業・地域経済・社会保障・平和などの闘いと方針が総合的に述べられています。
一つだけ紹介します。歴史的な60年安保闘争です(本編81-89ページ)。「政治は中小企業にとって禁句であった」という現実から出発して、粘り強い啓蒙宣伝活動が取り組まれました。そして3波にわたって行われた全国的な「閉店スト」の参加者は2万人(当時民商会員、約3万人)にも及びました。この「閉店スト」は安部公房作の新劇『石の語る日』のテーマに取り上げられ、海外にも報道されたそうです。
多くの闘いで印象的なのは、民商・全商連の三つの理念が貫かれていることです。立場の違う様々な中小業者団体・経済団体とも常に幅広く共闘を追求し、さらには労働者・農民など国民各層とともに要求実現の道を大きく切り開いてきました。アメリカの「ウォール街を占拠せよ」という運動に始まり、今世界中で「私たちは99%だ」という人民の運動がくりひろげられています。このように核心を突くテーマで圧倒的多数を結集する運動のあり方をすでに民商・全商連は地道に追求し実践してきた、といえるのではないでしょうか。本書には大型間接税反対の闘いが系統的に取り上げられています。多くの署名を取り、集会・デモを繰り返して世論を喚起してきた光栄ある闘いの歴史に恥じぬよう、今、消費税率引き上げなどを許さぬ闘いで民主党・野田政権を追い詰めることが喫緊の課題です。
ここまで残念ながらとても本書の内容を具体的に紹介しきれず、抽象的な指摘に終わってしまいました。本編を通読して370ページの「おわりに」にたどりつくと、「会内外の多くの方々に、民商・全商連運動の歴史的な役割を知っていただきたいと考え、読みやすく、親しみやすいものにすることを心がけました。また具体例も今後の運動発展に生かしやすいよう、教訓的な内容を明らかにし、かつ、より正確な史実にするよう努力しました」とあります。まさにこの言葉がしっくりきます。淡々とした叙述の中にも誠実さが感じられ、何よりも総括の科学性が平易な言葉で貫かれているように思えます(私のわずかな経験と見識だけでは「貫かれている」と断定できないけれども)。
もっとも一方では、本書は難しく考えなくても、叙事詩「戦後中小業者運動史」として読むことも可能でしょう。他方では民商・全商連運動の字引として活用することもできそうです。それぞれの活動家が直面している課題を目次の中に探し、本編の歴史的叙述に接するとともに、さらに関連する提言・見解等を資料編に見つけることもできます。もちろんそれらは民商・全商連運動の膨大な蓄積の中から精選されたものであり、そこを起点にして蓄積の本体に分け入っていくことも可能です。ガイドしてくれる先輩役員や事務局員もいることでしょう。忘れっぽくなった私たちには、資料編の年表も役立ちそうです。
以上、一人でも多くの方々に『民商・全商連の60年』をお勧めします。